Bounty Dog 【アグダード戦争】142-143

142

 史上最高に屈強で良い男であるシルフィの“ガイ”が、クラクションという鼻歌を歌った。軽快なクラクションのメロディと鋼で出来たホイールという筋肉で回し続ける、爆弾を幾ら受けても全く穴が空かない強力な特殊加工が施されたタイヤの動きにギャップがあり過ぎる。
 軍用トラック・”ガイ”は、ファヴィヴァバ軍が左右から猛攻撃してくるだろう、一本道で始まるデスマーチパレードに喜んで参加した。”ガイ”が出している足の速さはヒュウラやリングが走れる速度を軽く超えているが、パレード会場の一本道は、実際は数百キロ程ある長い長い道だった。
 遥か先に小さく、非常に小さく目的地が見える。軍曹が行きたい果物商の元私邸は、今は豆のような小ささで見えていても、実物は相当な大きさである事が容易に分かるくらい存在感があった。

 ファヴィヴァバは、何の生き物も無機物も通したくない一本道でさえ、通行を邪魔して破壊する兵器と施設の費用を物凄くケチっていた。延々と続く道に、延々とは脚立監視塔を置いていない。代わりにあったのは藪だった。己が撒かずに奴隷商・イシュダヌに撒かせた奴隷殺しの地雷を大量に埋めている、踏んだ生き物は炎で焼かれる前に粉砕死する死の罠が、脚立と脚立の隙間に満遍なく生えている。
 “ガイ”が、滑稽な光景を嘲笑うようにクラクションの鼻歌を響かせた。”ガイ”を運転するシルフィも、ハンドルの中央に付いているクラクションボタンを掌で押しながら嘲笑する。荷台に立っている軍曹も嘲笑した。片手ずつで掴んでいる2本の短い鉄パイプバットの1本を巨大脚立の一個に伸ばし向けて、相手にホームランを告知する。
 ミトも口角を上げた。悪どい笑顔をする。藪に地雷を撒いた人物が作った、破壊力抜群高級ミサイルの最後の1本を何処で使ってやろうかと、悪どい計画を頭の中で練る。リングは大きく伸びをして、肩と腕と足の関節をポキポキ鳴らしてから大きな声でニャーと鳴いた。未だ車酔いから完全に解放された訳ではないので、鳴いてから直ぐに座り込んだ。襲ってくる吐き気と闘う。
 ヒュウラは目を吊り上げたまま、身を捻って荷台を見つめていた。己を助手席に縛り付けているシートベルトに手を掛けると、
 猛ダッシュをした”ガイ”の合図で、軍曹送迎ラストミッション『デスマーチパレード』が幕を開けた。ファヴィヴァバ軍がミサイルを撃ってくる。数本感覚で、大量に。

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