Bounty Dog 【アグダード戦争】234-235

234

 ーー軍曹は、俺の”友”だ。デルタと別れた俺を救ってくれた。何度も。
 此処は物凄く危険な所だと、人間じゃない俺もずっと思ってる。軍曹も、朱色目も此処で無理に暮らす必要は無いと思う。だけど軍曹達はこの土地が好きだから、物凄く危険なのに居続けているのだとも思う。少し前に、ミディールを遂に捕まえてやろうと思って土から掘り出した時に、ミディールに喚かれながら言われた。
「あぎゃああ、親びーん!あっしは親びーんとずっと一緒に居たいでござんすが、あっしはこの土地が好きでそうろう。此処は故郷でやんす。此処で仲間の皆んなと暮らしたいでござんす。だからね、親びーんがずっと此処に居て」
 そう言われて、俺はミディール達を捕まえるのを辞めた。故郷というモノは知っている。そして俺はあの山が故郷じゃない。たまたま10年もあの山で暮らしていたが、俺は遠い場所にある別の山で生まれた。多分、家族である”あいつ”も未だ何処かの山で生きている。
 あいつと昔居た時に聞いたが、俺の種は食べ物を求めて色々な山を転々と移り住みながら生きているらしい。世界中の山を渡り巡る習性がある俺の種には故郷が無い。だけどミディールと軍曹には、ずっと住んでいる故郷がある。
 此処が故郷だ。故郷はきっと物凄く大事なモノなのだろう。この土地以外で軍曹達もミディール達も、暮らしたく無いんだ。ーー
 思考に耽ながら、ヒュウラは北に向かって一直線に走っていた。背後から猫の亜人のリングと、ミディールを含めた5体のモグラの亜人・コルドウが追い掛けてくる。
 ヒュウラは、奇襲先に行くまでに課題が幾つかあると読んでいた。課題の解決は、リングとミディールに”民間お掃除部隊”のアジトで罠を張らせている間に、事前に下調べをしておいて策を練っていた。
 最初の課題に取り掛かる前に、ヒュウラは再び思考に耽る。
 ーー軍曹の命がまた危ない。人間で入るのが無理なら、人間では無い俺達亜人が”羽虫”になって、イシュダヌという”ゴミ人間”の『箱』の中で暴れて軍曹達が『箱』に入れるようにすれば良い。
 軍曹を守る。ミディール達も、朱色目達も。こいつら皆んなの、故郷を守る。ーー

 ヒュウラが所持している人間の道具は、今回も複数ある。今、彼のポケットに入っているのは以下の物だ。
 コルドウの無声笛、ライム3個、『カプサイシン』の粉が入った小瓶2個。軍曹のミキサーに付いていた電源コード。”奇跡”を呼ぶ、カイ・ディスペルの100エード硬貨1枚。そして、もう1つ。

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