Bounty Dog【Science.Not,Magic】40

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 カイはコンテナとコンテナの隙間を潜り抜けながら冒険していた。お供の鼠はうきゅうきゅ鳴きながら、勇者カイに付いていく。
 勇者の武器は精霊の加護を受けた伝説の剣では無く、2000ページ超えの分厚い理学本と”魔法”である。但し勇者は己が使える特殊能力を”魔法”だと思っていない。特殊能力という創作御伽噺のような認識も全くしていない。
 スーパーハイパーウルトラスペシャル、ダサい必殺技名を勝手に付けていた事もあるが、今の彼にとって『原子操作術』は”科学”以外の何者でも無かった。彼は兄タクトと同じく、原子操作術と科学は『星が持つ力の源達を研究・分析して解明し、人間と他の生き物が幸福な生活をする為に、星から力を貸して貰う』技術であると確信している。
 個人的にスーパーハイパーウルトラアルティメット、ダサい呼称・勇者では無く『科学者』と呼ばれたい、天然の光と縁が欲しいが未だ無い人間の少年カイは、ファーストダンジョン・コンテナ迷路を攻略していた。コンテナの側面に描いている企業名には目もくれない。彼の関心は空気中に漂っている星の力『原子』。他には船という現在己達が乗っている乗り物が、海を渡って行き着く先の土地だけ気にしていた。
 冒険を続ける。背後から追ってきていた鼠が、うきゅうと鳴いて大きな音を出した。足を止めて踵を返す。お供がうつ伏せになって倒れていた。慌てて駆け寄ると、人間のような見た目をしている子鼠は、頭部から生えている黒い三角形の耳を上下に揺らしながら、口を真っ白い肌をした小さな両手で押さえて呻いていた。
 限界突破走りを延々とさせられてからの乗船で、三半規管が弱くなって船酔いを起こしていた。カイはエスナを扉が開いているコンテナの1つに引き摺り入れる。己も中に入って扉を閉めると、真っ暗になった空間を手持ちの懐中電灯で照らした。

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