Bounty Dog【Science.Not,Magic】66-67

66

 彼は其の容姿に似合わない名前だった。しかも苗字が創作御伽噺で登場する人物のように現実味が無い。偽名だと思ったが、ミトは特に気にしなかった。
 スティーヴ・マグナハートと名乗った小麦肌、黒髪ショートボブ、そして宝石のように綺麗な緑色の目をした青年は、ミトよりも数センチ高い程度の身長しか無い。成長前のヒュウラと同じ背丈である。小柄な青年に先導されて歩くミトは、相手の名前よりも両手に黒い革手袋を嵌めている事の方が気になった。ヒュウラも一時期無くした事があったが、何時も茶色い革手袋を手に嵌めている。
 『あなただけを見つめている』という意味を持つ花は、胸ポケットに挿していた。相手から貰った別の花も同じポケットに挿している。二輪の花は植物課から来た先輩保護官に生け方を教えて貰おうと思った。其の前に、相手が入った施設に、一緒に入って用事を行う。
 此の国の入出国審査所だった。国際組織の一員である己は特段、長期滞在さえしなければ入国許可を申請する必要は無い。だが相手は違うので、様子を遠くから見守った。
 10分も掛からずに手続きを済ました相手は、入出国手続きをする他の人間達に混ざって棒立ちしている女の二の腕を掴んで、部屋の隅に連れて行ってから話し掛けてきた。
「ぼんやりする暇があったらさ、あんたが探してる奴を探せば?」
 ミトは『あなただけを見つめている』花を裏返して挿し直した。此処には”ずっと見つめていたい”ヒュウラは居ないと確信している。櫻國では入国処理をしたが、彼も己と同じ組織の一員で、しかも相手は人間では無い。
 対して真の人間であるスティーヴという青年は、不機嫌顔で小さな鼻息を吐いてから、二の腕を掴んで施設から出た。ミトを引き摺るように連れながら移動する。ノジョム街と真逆である閑散とした半島国の住宅地を歩きながら、スティーヴは絶えず周囲に真緑の目を向けていた。
 光が当たっていないと、彼の目は孔雀石では無くエメラルドグリーンだった。赤・オレンジ・黄色と青紫色で絶妙に染まった夏の朝日を浴びた相手の目が、再び美麗な孔雀色になると、今も未だぼんやりしたままであるミルクティー色の長い髪をした人間の女に言った。
「ブエノ(まあ)……このままだと上手く動け無いや。おれさ、足に自信あるんだけど、あんたも使う?」

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