Bounty Dog【Science.Not,Magic】59-60

59

 彼の夢には砂嵐が吹き荒れていなかった。燦々とした黄金色の朝日が、昨日のスコールが乾き切っていない水濡れの木々の隙間から、湿った地面に向かって光の雨を降り注がせている。
 彼は12年前、其のジャングルで産まれた。虎の亜人にも掟がある。虎の掟は東の島の固有種である”妖精”よりも理不尽で、産まれた時に母親より先に起き上がらないと、其の場で親に喰い殺される。
 彼は産まれた時から凶暴性が薄かった。産まれて直ぐに一緒に産まれた他の兄弟は四つん這いで立ち上がって掟に合格したが、彼だけのんびりと葉っぱのベッドの上で揺ら揺ら揺れて遊んでいた。
 見かねた親虎が立ち上がって、掟に失格した彼を食べようと喉に牙を突き立て掛けた時、親虎は再び倒れた。眉間から血を吹き出して、浮いた身が吹き飛んでから木にぶつかって倒れた親虎は、失格子虎よりも先に死んだ。
 兄弟達は散り散りになって逃げたが、親を失った肉を未だ食べられない赤子の虎は、ジャングルの掟で他の生き物達の餌になった。彼だけがジャングルの掟からも救われる。
 救ってくれた存在は、1人の人間だった。

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