Bounty Dog 【清稜風月】200-201

200

 この人間の道具の名前がヒシャクだと教えてくれたのは、ヒメという人間の女だった。この人間の女の手をヒシャクで叩くと、ポンポンという音が出た。
 ロウこと槭樹の手もヒシャクで叩いてみた。ヒメと同じポンポンという音が出た。睦月の手は叩けなかったが、十中八九でポンポンという同じ音が出ただろう。叩く物じゃ無い水を汲む物だとヒメに腹を握り拳でポンポン叩かれながら叱られたが、其れは人間がする使い方だとしか思わなかった。
 ヒュウラに使われる人間の道具は、真の方法で長年大事に使われる事では無く、使う存在を脅威と死から守り抜く事が、其の物が果たす天から授けられた使命になる。ヒシャクで何かを叩いたら出るポンポン音は軽い音だった。力の限りコレで殴っても敵は一撃では決して倒せないだろう。ヒシャクは武器に出来ない。
 そう思っていると、柄杓の丸い水を掬う部分が他の物を容易に嵌められる程大きく窪んでいる事に、人間の道具に好奇心旺盛な狼の亜人は勘付いた。

 シルフィとの連絡を終えた睦月が、ヒュウラの背中に回り込んだ。甘夏姫から腹をポンポン叩かれていた狼の上半身を起こす。腹が少し痛くなっていた狼は仏頂面だが安堵していた。『軽い攻撃も数打ちゃ痛い』も学ぶ。
 何方の方向で使おうか悩んだ。頭を少し回転させて考えてから使い方を決めると、睦月に促されてヒュウラは立ち上がった。甘夏と槭樹にも呼び掛けて櫻國の権力者2人も立ち上がらせると、睦月は枕元に置かれている毬藻入りの硝子器を、ヒュウラの許可を得てから拾い持った。
 2人と1体を引き連れながら、臨時探偵業を再開させた猟師はイヌナキ城を出る。外門の番に戻っていた黒作業衣の人間の男2人の前で睦月は一度立ち止まった。当主を借りる事への了承を彼らに得てから毬藻入りの容器を男の1人に手渡すと、明日引き取りに来ると告げてから、槭樹の部下に依頼した。
「御用意を頂けるのでしたら、元気な毬藻を三個加えて入れて下さい。関係が良好で居られる理想的な友達の数は、自分を含めて四だから」

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