Bounty Dog 【清稜風月】123-125

123

 “あいつ”が此の場に居ない事が、非常にもどかしかった。己は視力が良いだけの猟師であり、甘夏や槭樹のような権力は持っておらず、ヒュウラや”あいつ”のような高い身体能力も備わっていなかった。
 睦月は日雨の家の物置部屋の中で、2歳の時から集落同士で交流があり、付き合いが長過ぎて腐れ縁状態である、東洋の隠密部族の里出身の”もう1人の幼馴染”がこの家に残している、櫻國の外の世界についての資料を手当たり次第に閲覧していた。資料は相手が現在携わっている国際保護組織で扱っている、人間の民族と世界各国の文化に関する情報が書かれた巻物や西洋書籍ばかりだったが、内部情報が5年前から約1ヶ月前まで完全遮断していた南西大陸中東部・アグダード地帯は無いものの、櫻國を含めた殆どの国に関して、各国の現地人の民族性や文化・歴史に関する情報が書かれていた。
 己と、この資料を置いて行っている相手が産まれる遥か古(いにしえ)に、此の東の島国を影から侵食して植民地にしようとしていた北東大陸・中央大陸・北西大陸にある国々の民族性と文化について調べたかった。臨時探偵は容疑者Kと容疑者Sを、3大陸のいずれかにある先進国の出身者で、国の権力者達から命令されて櫻国に潜入している、西洋の隠密『スパイ』だと推理していた。
 Sについては、大まかだが的を突いていた。睦月は敵の国の情報を先ず徹底的に調べ上げてから、槭樹を説得して甘夏との戦を回避させつつ、KとSを同じく探している槭樹と協力して、必要有ればヒュウラも使い、日雨の命と国の命を同時に奪おうとしている2人の人間を纏めて御用してやるつもりだった。
 睦月は足元に積み上げた巻物と本の山を見下ろしながら、苦虫を噛んでいるような顔をしていた。ヒュウラに日雨の護衛を任せて何時間も資料と闘ったが、彼は敵と敵の出身国の情報が微塵も手に入っていなかった。
 世界共通語が全く読めない。資料は櫻國の情報以外の全てが、世界共通語と各国の独自語で書かれていた。
 己の国と幼馴染の亜人を救う為の第一歩を踏み出した時点で、己が出来ない事を補填してくれる別の存在が必要になっていた。世界共通語が読める人間。槭樹か甘夏か、”あいつ”の内の誰かのーー。

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