Bounty Dog 【アグダード戦争】236-237

236

 ーー人間は、この途轍もなく大きな『箱』を『城』と呼ぶらしい。軍曹は、他の布達と暮らしている棲家を『寝ぐら』と何時も呼ぶ。一方で朱色目やミト達は同じモノを、『アジト』と呼んでいる。
 この『箱』を、イシュダヌというあの汚い緑色の布を被った人間は何と呼んでいるのだろう?俺は、何と呼べば良いのか思い付かない。だから軍曹と同じ呼び方にする。『ブサイク城』。ーー
 軍曹曰く“ブサイク”こと、アグダード地帯を蝕む最後の勢力大将・イシュダヌの棲家は、亜人の青年が想像していたモノを遥かに超えて巨大だった。数ヶ月前に訪れた、アグダード地帯北東部最端にあった果物商貴族の屋敷のように幾つもの建物が繋がっていなかったが、たった1つだけの建物が巨大だった。
 午前中に軍曹達とこの建物を見に行ったシルフィが表現していた通り、テラスと外通路が其処ら彼処に設置されている建物は、正しく西洋の中世時代に建てられたような王族の『城』だった。縦横共に大きく、高さは恐らくビル20階ほどの高さがあると想像する。凹凸が上に上に重なっているような建物は、全体的に石造りで汚い茶色に染まっていた。金属製のドアは幾つも見えるが、窓がどの壁にも一切無い。
 其処は出荷前の奴隷達を中で収納している、人間の家畜施設でもあった。全体的に汚くて不気味な見た目をしているが、建物の外周にもっと汚い悍ましいモノが並んでいる。
 巨大なミサイルが設置台に取り付けられて並べられていた。側にイシュダヌ軍の兵士らしきアグダード人達が並んでいる。ヒュウラ達亜人勢は皆、動物のように視力が非常に良い。兵士達の首と手首に付いた何かが太陽の光を反射して煌めいている事にも、ヒュウラは直ぐに気付いた。
 ーー人間達が何か持っている。ーーヒュウラは、仏頂面のまま『ブサイク城』ことイシュダヌの棲家の周囲に目を配る。深い水溜まりがあった。『堀』というらしい石と土で作られていて川のように水が溜められているモノが、建物をぐるりと囲んでいる。
 その手前から己達が居る場所までは、かなりの距離があった。飛行場から此処まで通ってきた道に生えていた、あの不気味な花が広場を埋め尽くすように生えている。巨大な花畑の中に、川を隔てて巨大な『箱』が建っている。そのような状態だった。
 ヒュウラはミサイル以外にも、この場所に脅威があると読んでいた。ーー花畑の中に地雷が大量に埋まっている。ーー花畑には他にも、視覚的に丸見えになっている”人間が作ったあるモノ”が幾つも土から生えているように伸びていた。
 モグラ達を殺さず、己らも死なず、全員で『ブサイク城』に侵入するには鬼畜な難易度だった。最終課題となる最大の難所を凝視しながら、ヒュウラは頭の中に収まっている脳をフル回転させる。
 今回、彼は脅威を打破する為に使う人間の道具を。ポケットに収められるモノしか持ってきていない。戦車の外装で作った巨大盾は、余りにも目立つので”民間お掃除部隊”のアジトに置いてきていた。
 暫く静止していると、リングとミディールが呼び掛けてくる。相棒と子分の声を無視して思考に耽ると、10秒足らずで攻略方法を思い付いた。
 金と赤の目を限界まで吊り上げる。背後から人間の喚き声が徐々に大きく聞こえてくると、仲間達を動かして、最終課題の攻略を開始した。

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