Bounty Dog【Science.Not,Magic】27-29

27

「生存しているなら、あの子はLランクじゃ無くてSランクよ。たった1体でも生きているのなら絶滅していない」
「確かにそうですが……でも何で突然姿を表したのでしょうか?何十年も世界中を探しても発見されなかったのに、突然。しかも本人は生きている他の同種の事を全く知りません」
「確かに妙ね。でも記憶喪失以外にも、可能性は幾つかある。それにあの子は姿も能力も間違い無くローグ。原子操作術という、人間には未知の魔法を自在に使えるわ」

 カイは寝る前の歯磨きと入浴を終わらせて、己用の寝室にして貰っている小会議室Eへ行く途中だった。パジャマが荷物に無かったので紅志に貰った水色の甚兵衛(じんべえ)を着ている彼は、セグルメントに貰った”まざーぼーど”という謎の物体の購買用製品パンフレット数冊と、先日隣の国で200エードで買った中古の理学書のペーパーバッグを抱えながら、通路の一角で其の会話を聞いた。
 風呂場に行こうとしていた時に出会したセグルメントに、パンフレットを渡されて「カイ、爆速に興味は無いか?」と言われた。「無い」と即答して終わった此の会話でデジタルオタク親父が発した言葉が、今日最後に聞く人間の言葉だと思っていた。眼前で話し合っている人間の男女は、盗み聞きをしている人間の少年に勘付いていない。女の方はシルフィ・コルクラートという此の施設の最高責任者。男の方は軍帽のような帽子を被っている、未だ直接会って話した事が無い齢の若い保護官。
 カイは通り過ぎるつもりだったが、言葉の一部を聞いて立ち止まっていた。会話の中に知っている言葉が出てきたからだった。
 ローグ。カイが唯一知っている鼠の亜人の話をしている保護官達の会話を明瞭に聞く為に、彼は忍び足で距離を縮めてから、物陰に隠れた。
「リーダー。地下室に閉じ込めているL……Sランクのローグですが、怪我は全快しています。Sランク専用の保護施設への護送は?」
「無理よ。施設内に居る他の絶滅危惧種も纏めて喪失(ロスト)させられる」
 両肘に掌を付ける形で腕を組んでいるシルフィが、目を吊り上げながら言った。軍帽を被った男保護官が一言二言喋ったので返答をした後、シルフィが指示をする。
「今後の処置に関しては、上層部と相談する。引き続きローグは拘束した状態で見張っていて頂戴。チーズは与えても良い。但し毎週水曜日、3時のおやつにエメンタールチーズを2、3切れ」
 了解したと返事をして、男保護官が通路の奥に歩いて行った。消えていく部下の背を見守ってから、シルフィは腕を解いてスーツスカートのポケットに手を突っ込む。メモ帳を取り出して開き、記述文を確認すると、メモ帳をスカートの中に戻して部下の後を追うように歩いて行った。
 カイが物陰から出てくる。シルフィが白銀のショットガンを背負っている事が気になったが、会話の内容の方に強い興味を抱いていた。
 此の建物にローグが居るらしい。地下室を探す旅を明日すると決めて、彼は小会議室Eに向かって行った。

28

【記述日:西暦23XX、7月17日。獣犬族『魔犬』カロルの予言と指示】
・ヒュウラに2回命の危機が訪れる。2回目の危機で一生不憫な状態になる。
・2回目の危機を回避する為に、2度目の満月までにミト・ラグナルをヒュウラから離せ(7月20日追記:期限9月18日)
・ヒュウラに訪れる1度目の危機は、勇者と影と小生意気が救う
・死の木の蜜虫がミトに付くが、付けたままにしろ
・ミトは殺すな。ヒュウラから離しておけば、未来で大いに役立つ
・(ヒュウラの?カロルの?)母には自然に会う
・わたしとヒュウラの事も、自然に分かる

【記述日:西暦23XX、7月25日。ヒュウラ経由で伝えられたカロルの予言と指示】
・ヒュウラがする行動の邪魔をするな
・お前のしたい事を早めに行え。死の木が早く刈り取れる
・お前のしたい事をすれば、其処から3度目の新月までに、お前とヒュウラは2体、ミトは1体、強力な生き物が群れに加わる
・お前とヒュウラの群れ、およびミトは12度目の満月の時までに強い力を持つが、死の木を刈り取る存在は2体で、1体は何方の群れにも加わらない

・死の木を刈り取る準備が出来るまでに、ヒュウラに関わっている生き物が7体死ぬ。此の数は”彼奴”が決めていて、何をしても変わらない。

29

 戦闘する気満々だった。狼は鼠狩りを決行するべく、動き出す。

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