Bounty Dog【Science.Not,Magic】22-23

22

「本当、お前もクレイジーだよ」
 セグルメント・カッティーナが呟いた。『世界生物保護連合』3班・亜人課の現場保護部隊専用支部の一角にある班長室で、班長用の執務机の上に足を組んで座っている彼は、班長室に置かれた赤いロココ調の椅子に座っている、仏頂面の亜人に向かって話し掛けた。
「犬だからなのか?どうしてあの眼鏡を何時迄もご主人様として神格化させてるんだよ。ありゃあ、唯のクレイジーなデジタルオタク。略して、デルタ」
「名前は偶然でしか無いわ。そして私も眼鏡よ」
 銀縁眼鏡を掛けているシルフィ・コルクラートが、アイスティー入りのグラスから口を離して言ってきた。執務椅子に座っている彼女と魔界の椅子に座っているヒュウラは、もう1存在の眼鏡も知っている。だがセグルメントは全く知らず、完全に両者は無関係だった。
 頭の中が空っぽのまま1ヶ月が経過しているヒュウラは、此の世で生きている何かが己に向かって喋って来る度に響きがどうたらこうたらと、フレームだけの黒縁眼鏡を掛けた魔界の狼に頭の中でグルルル、グルルル唸られながら呟かれないので、今は”生き物”の話が静かに聞けて少し幸せだった。
 カロルと交信出来ない現状を、ヒュウラは何とも思っていない。相手から深く愛されてるのに『響きで煩い変な奴』と認識していて一切応えない超絶薄情な狼は、頭が快適な今の内に主人の話を聴こうと耳を傾けていた。
 セグルメントは、響きが醜いようで美しいのだろうが、きっと醜いで合っている銀縁眼鏡達の話を始める。
「此の双子が此の組織でやらかしまくってたクレイジー伝説の数々を、俺様がお前に語って聴かせてやろう。お前がミトに取っ捕まる、10年くらい前から此の組織に居るクレイジー・ツー・眼鏡。其処に居る其の姉ちゃんの方は」
 執務机に直乗りしているセグルメントは振り返る。行儀良く椅子に座っているシルフィは、アイスティーを高級酒を飲むように、ゆっくりと口に含み飲んでいる。
 ヒュウラは話を聞いているが、目は魔界の椅子に付いている頑丈な肘掛けの片側を繁々と観察していた。気配を感じてセグルメントの側に顔を向けると、小さな溜息を吐いたセグルメントが鉢巻のように結び目を横にして巻いている頭部の白タオルを、褐色の太い手の指で弄り触りながら話を続ける。
「シルフィ・コルクラートさんは、亜人課の現場部隊の隊長なのに情報部員だった弟と何時も組んで、部隊員達を全員放ったらかして、2人で勝手に保護任務に繰り出すのが当たり前だったんだ。で、此れは俺が亜人課の情報部の奴から聞いた、コイツらが此処で作ってる伝説の1個」
 ヒュウラは返事も反応もしない。セグルメントが左手でピースサインを作って見せてくる。利き腕では無いもう一方を膝の上に折り曲げ置いている46歳の人間の男は、髭を綺麗に剃っている若々しい顔に不敵の笑みを浮かべて、”2”を手のジェスチャーで示しながら口を開いた。
「年前。場所は北東大陸連邦国家の西部」

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