Bounty Dog 【アグダード戦争】223-225

223

 軍曹達とシルフィ達がイシュダヌと、イシュダヌが潜伏している事がほぼ確実である麻薬奴隷商会本部『イシュダヌ城』への奇襲の仕方について作戦会議と情報収集を始めたので、ヒュウラはリングを連れて、”民間お掃除部隊”のアジトをコッソリと出た。
 唯、”今”は行動を起こさない。先ずは”相手”の無事を確認する。お気に入りの平べったい岩で仁王立ちしたヒュウラは、ポケットから”あの道具”を再び取り出した。
 ナスィルと別れて直ぐの時、土を踏み割って無理矢理捕まえたミディールから盗んだ、紐付きの骨の笛だった。吹いても音は全く出ないが、モグラの亜人・コルドウだけが感知出来る特殊な超音波が出るらしい。
 『コルドウの無声笛』を口に咥える。勿論盗んでから3回以上良く洗って布で良く拭いた子分のホイッスルを咥えたまま、仏頂面のヒュウラは真横に立っている猫の亜人が大きな声で一鳴きすると同時に、笛を勢い良く吹いた。
 笛から全く音は出なかった。代わりに強い振動が起こる。振動の波がヒュウラを中心に円形に広がって次第に消えると、
 5つの盛り上がった土山が、土と砂と岩だけある広場の奥から此方に向かって伸びてきた。岩から飛び降りて前方に歩き出したヒュウラが暫く歩いてから立ち止まると、5つの土山がヒュウラを中心にして、渦を描くようにグルグル回り出す。
 暫く回ってから、ヒュウラと、ヒュウラを追いかけて来たリングの目の前で横並びになると、真ん中の土山から”子分”の声が聞こえてきた。
「呼ばれて直ぐ来て、飛び出ない!親びーん、再び参上したでやんす!!」
「ミディール」
 ヒュウラは子分の雄モグラの名前を呼ぶ。子分と子分の群れが全員毒で喪失しておらず健在だった事に内心安堵すると、顔は仏頂面のまま、口だけ動かしてミディール達と、ついでにリングにも己が考えている計画を伝えた。
 リングは了解を鳴き声で伝える。ミディールは土山からハートマークを大量に噴き出すと、親愛なる親びーん・ヒュウラに向かって返事した。
「んしゃ、今日は呼んだだけじゃないでやんすね。服のバーゲンセール前の下見じゃないでそうろうね?んしゃ!遂に来た、バーゲン当日!!親びーん!!ささあ、さあさあ!ああしらに、仰ってくだせえでござんす!ご命令を!!」
「マジヤバ、ご命令?」
「ご、命令ー?」
「おおおおおおおおおおおお、おん!命令!!」
「祭りを始めよう、舁夫」
 他のモグラ達も反応した。ヒュウラは口だけを動かして一言だけ呟く。
「羽虫」
 今度はリングが反応した。大きく一鳴きしてからヒュウラに尋ねる。
「ニャー。虫?ニャー、食べない。ヒュウラ、食べるの?美味しい?ニャー」
 食い意地が張っている猫は、グーにされた茶色い手袋を着けている右手で頭を1回叩かれた。小さな悲鳴を上げる。直ぐにブニャブニャ叩いてきた狼に怒り出した。モグラ達は、今度は全員が土山からハテナマークを噴き出す。
「羽虫」
 ヒュウラが再び一言だけ呟く。虹彩が金、瞳孔が赤い目を吊り上げると、猫とモグラ達に指示をした。
「俺に付いてこい」

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