Bounty Dog 【アグダード戦争】221-222

221

 皆、動き出した。この日は全員静かに動き出す。そして夜になって、何時ものように皆が寝た。

 軍曹は1人で、隊長室で寝ていた。ファヴィヴァバの”掃除”から帰還して直ぐに隊長室に運ばれていたベッドを、そのまま就寝用の道具として使い続けていた。
 軍曹は鼾1つかかずに静かに寝ている。寝ている時は上品な人間で、輩では無かった。幼い頃に親に躾けられて身に付けた、上級貴族の非常に綺麗な寝相だった。
 ベッドの側に置かれている椅子に、”赤系”の目の男が座っている。照明は完全に消えていて目以外の姿は殆ど分からなかったが、何時も被っている黒い布を、今は完全に脱いでいた。
 浅黒い肌に先端が真っ赤に染まった白髪をしている。長さは一つ括りに出来るミディアムショートで、縛っていない髪に緩いウエーブが掛かっている。
 右手に、大型のサバイバルナイフを握っていた。ナイフを一瞥してから無防備な軍曹の寝顔を見つめると、独り言のように呟いた。
「思い込みの逆。そう、思い込みの逆です。覚えておいて、ガビー(アホ)」

 イシュダヌの刺客は、軍曹に何もせずにナイフを握ったまま寝室を去っていった。
 何も知らない軍曹はその晩、親友ともう此の世に居ない学校のクラスメイト達と一緒に、軍隊式改造野球をして遊んでいる夢を見ていた。

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