Bounty Dog【Science.Not,Magic】35-36

35

 暗闇の中に、水が弾ける音が聞こえてきた。

 『世界生物保護連合』3班・亜人課の現場保護部隊専用支部がある某小国には、7月中旬に3日間に渡って盛大に行われる、国を挙げた祭りがある。
 『蟹エビ貝蛸・酪農牛乳祭り』と呼ばれる其の祭りは、丘が多いイメージだが海と隣接しているという事実、及び商業施設が充実している隣国よりも暮らしやすいと世界的に認知して貰う為に国民総出で立ち上がって始まった、海の幸と酪農産物をふんだんに使った料理『クラムチャウダー』と其の他諸々の料理を堪能する、食のカーニバルである。
 クラムチャウダー祭りという俗称でも呼ばれる、響きが美しいのか醜いのか亜人には分からない祭りが近年生まれた此の国には、カイの予想通り、海があった。闇の中から湿気を含んだ涼しい風が吹いてくる。潮の香りも鼻で感じ取ると、クラムチャウダーはトマトたっぷりミネストローネよりは劣るが好きである剛毛2つ括り少年は、目を輝かせて走る速度を上げた。
 一粒の光の粒が、淡い光の帯になって顔に浴びせられる。起動している灯台の全貌を視覚で確認する前に、横並びになって七色に光る金平糖のような粒達が視界に写った。
「やった!やっぱりあったぞ!船!!はーははは!はーははは!はー!!」
 エスナは、光の粒達が『原子』のようだと思った。カイが独特の笑い声を上げてラストスパートダッシュをした。友達の服の背を鷲掴みにした鼠の亜人が、半泣き顔でうきゅうきゅ言いながら足を必死に動かす。
 片方平常運転・片方限界突破で港に辿り着いた子供2存在は、港を走り抜けて、碇とタラップが下ろされている1隻の巨大な船の中に走り入って行った。
 船に、見張りは誰も居なかった。

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