Bounty Dog【Science.Not,Magic】90-91

90

 Q:虎の呪いに掛かっていたという件は?
 A:ええ、ええ。其れも間違ってはいません。バグフィリィと片時も離れずにずっと暮らしていましたから。……だから今はとても新鮮な気持ちです。可笑しいですよね。あの子と私は、離れ離れになっているというのに。
 Q:(沈黙)
 A:大丈夫です。後悔は、していません…………。

 彼女も呪いに掛かっていた。狼に依存し過ぎる呪いである。呪いの元になっている狼は、閑散し始めたパレードの群衆の中でも、結局見付け出す事は出来なかった。
 隣で歩いている青年も、探している存在が見付からなかったようだ。舌打ちをして綺麗な顔を歪めると、パーツは大きいが可でも無く不可でも無い顔をしたミリタリー服を着ているミルクティー髪の女に、何故か軽蔑の眼差しを向ける。
(表からは軍隊が、裏からは私達がーー)
 今は昇天した”幽霊”の女が、頭の中で告げる。
(694号、教えてあげるわ。祖国の現在の主戦力は陸軍第二部隊で、無敵軍隊と持て囃されていた陸軍第一部隊は、5年前に消滅して以降、再結成する素振りは全く無いそうよ。本当に祖国は”自由”の国。表側も裏側も差別無く、切り捨てや隠蔽を直ぐに為さる素晴らしい国)
 6月4日の23:50頃に酒を飲みながら勝手にベラベラ喋ってきた、興味が無い祖国の軍隊事情をぼんやりと思い出したスティーヴは、思考を消してミトに睨み目を向けた。刹那だったが相手を怯えさせる。直ぐに旧テムラビルの崩壊音を2人で聞いた。同時に視線を同じ方角に向ける。
 猫がニャーと鳴いて、猫の隣にいる人間の女もNOと呟いた。土埃を上げて崩れ落ちた小さな建物に全員の目が釘付けになるが、
 ミトは其の場所に探している狼が居た事に、微塵も勘付かなかった。
 猫がギニャーと鳴いて、隣に居る人間の女が「NOおおお!オウ・マイ・ガー!!」と騒いだ。突然喪失した建物から土煙が流れてきて、視界ごと身を緩い砂嵐が包み込む。
 胴が長い車が一行の真横にある道路を走り抜けていった。コノハの『いえーいYES』とオマケのフツメンがパレード場から居なくなったが、イケメン超絶大好き女保護官も、窒息系超絶イケメンを『ブサイク』と罵った事がある女保護官も、何もかもを諜報で”お見通し”出来る西洋の隠密すらも、全く勘付かなかった。
 猫がブニャブニャ鳴き喚いて、隣の”ノウ”はNOと呟く。砂嵐が収まって、周囲に静寂が訪れた。パレードも終わっている。観衆である半島の現地人達がガヤガヤ再び騒ぎ出して、露店と催し物の小屋が建ち並んでいる広場に向かって行くと、ミトはスティーヴに腕を掴まれて、群衆と逆方向に、潰れた旧型のビルの奥にある現テムラ社ビルに向かって、歩かさせられた。
 薄まらない心の中の砂嵐に包まれながら、亡霊の女が声だけの存在になって嘲笑ってくる。
(5杯の自家製マティーニ。カクテルの王の列から離れた場所に置いている、ゾンビグラスに入った1杯の酔わないスクリュードライバー。
 肉体が無い私達”幽霊”は、身が腐った死人にすらなれない。人間だった頃に抱いていた夢を追うのは、大人になった瞬間に辞めろ。祖国に戻り、祖国に尽くし、祖国にお前の全てを捧げろ。祖国に肉体と命を捧げるのが表の軍隊。裏である私達スパイは”幽霊”である故に、どう足掻こうが、祖国の為だけにしか存在理由は無い)
 返事も反応もしない。怒りの念も感じずに、自称スティーヴ・マグナハートは道中で拾った人間の女を引っ張りながら、己の足と意思で前に進み続けた。

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 ヒュウラは瓦礫からブリキ人形を掘り出した。片腕の肘下と片足の膝下が齧り取れている。紅志も瓦礫から布の人形を掘り出した。柔らかい方の玩具は下半身が喰われたように無くなっている。

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