Bounty Dog 【清稜風月】140

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 ーー人間も、間違って思い込むと何処までも間違った方向に突き進んで行くのだな。ーー
 人間では無い生き物である”彼”は、イヌナキ城の外門から堀を伝って移動している間、人知れず他の命も知れずに思考に耽ていた。彼も数日前まで”神輿”という人間の道具に対して、明らかに見当違いの方向に向かって暴走に暴走していた馬鹿犬である。その馬鹿犬の暴走を至極穏便な形で喪失させた、ある意味で彼の”恩人”である若い人間の男の横顔を見ながら、その人間の男の隣に立っている、己が暴走中に”神輿の化身”だと思い込み、倒そうと奮闘したが相棒の猫に遠隔から叱られて断念し、神輿の呪縛が解けても今も”ノウ”と名付けて、幾ら相手からリピートがアフターでミーとか言われて否定されようが似合い過ぎる渾名なので呼び続けている人間の女も一緒に見つめた。
 ヒュウラは横並びになって顔を上げて曲輪の屋根を凝視している、2人の人間の様子を仏頂面で繁々と観察する。2人の人間が見ている壁を己も一瞥するなり、己はハイジャンプ1回で軽々と壁を飛び越えられると速攻で思った。だが狼の亜人のように超人級の身体能力は備わっていない睦月と”ノウ”は、お互いが持っている太い縄と手甲鉤を組み合わせて、城に侵入する為の道具を作っていた。
 新たな道具は直ぐに完成した。睦月が周囲を見回している間に、ノウが鉤爪付きの縄を曲輪に向かって投げる。真の名はコノハであるヒュウラにだけ”ノウ”と呼ばれている護衛保護官は、護衛対象である絶滅危惧種の亜人兼特別保護官こと元・忍者犬に周囲を見渡すように指示してから、睦月に鉤爪が屋根の瓦に引っ掛かっている簡易式忍者道具の縄の端を持たせて壁を登らせる。コノハから補助を受けながら睦月が曲輪の屋根に乗ると、睦月から縄を受け取って、コノハが曲輪の壁を登り始めた。
 ヒュウラは鉄と鉄とぶつかり合う音と人間の男女の罵声が頻繁に聞こえてくる外門付近を仏頂面で見つめる。どんなに暴力的な音と声がしてきても、彼は仏頂面で様子を見つめているだけだった。コノハが曲輪の上に乗って、狼の亜人に縄を投げてくる。亜人は、投げられた縄も無視してハイジャンプで曲輪の上に乗った。NOとノウが言って、睦月は静かに苦笑した。
 亜人は、城の中に降りて天守に向かって走っていく人間2人を追う。追い掛けるが、頭の中では何も考えていなかった。
 ヒュウラは己と同じ亜人である日雨の為に、櫻國を平和にしたいと前日から決めていた。だが此の国の人間達が勝手に集団で走っている間違った道から正しい道に走るように誘導してやろうとは、全く思わない。
 “友”の亜人の願いは叶える。友の亜人には関わる。友の人間にも関わる。友の人間の願いも叶える。だがそれ以外の亜人や人間に関わって願いを叶えてやろうとする気持ちは、睦月にもノウにも、ロウこと槭樹にも、ヒメこと甘夏という人間にすら、今は微塵も湧かなかった。

 友と己主義であるが、狼の亜人は”友では無いが非常に気になった存在”や”己に何かをしろと直接依頼してきた存在”に対しても、これまで時々関わっていた。
 己では無い他の亜人や人間がする暴走も、櫻國に来る前に幾度と体験している。その上で、今回起こっている櫻國の異変にやはりヒュウラは興味が湧かなかった。”死の臭い”を感じた槭樹だけは若干気になっているが、今回のイヌナキ城再侵入任務で槭樹や他の人間達に関わっても、相手の裏にある”己の友の役に立つ”という相互作用が無いと思っていたからだった。

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