Bounty Dog 【アグダード戦争】182-183

182

 シルフィ・コルクラートはミト・ラグナルを連れて地上の庭を走る。先に屋敷に侵入しているヒュウラとリングと同じように軍曹探しを最優先任務にして、地下通路の出入り口から1番近い場所にあるラドクリフ邸の第1棟では無く、斜め後ろにある第2棟に向かった。
 ヒシャームは屋敷から地下通路にいた己達に地図を落として渡してきた時、ラドクリフ邸の屋敷全体図も一緒に重ねて折って、渡してきた。全5棟ある巨大な屋敷の、それぞれの棟の役割が世界共通文字でメモ書きされている。ヒシャームが書いたらしいキッチリ整い過ぎている字のメモで、4棟が実質的なラドクリフ一家の居住地だと分かったが、4棟と、全棟と繋がっている3棟は出入り口が一切無い。外から入れる扉は1棟の正面玄関、5棟の取引客用正面玄関、そして2棟の召使いが主に使う、今は水が全く無い死の川の近くに繋がる裏口の3つにだけ設置されていた。
 シルフィは、1番小さくて侵入がバレにくいと思った、2棟の裏口から入ろうとする。が、ミトに止められた。ミトは何故かクスクス笑いながら、シルフィに言う。
「コルクラート保護官。裏口から入るって、強盗みたいよ。それこそ危ないと思います。ヒュウラとリンちゃんを助ける為に、ワザと脅威を引き受けてするんだったら兎も角」
 シルフィは不思議そうにミトの顔を見た。先程からパニックモードになっているシルフィは、ミトが言った言葉の意味を、50音の最初の言葉を口から漏らして理解する。
 ーー正面玄関から堂々と入った方が、客人だと凶悪防犯システムが認識してくれる可能性がある。ーーシルフィは目から大分ズレている銀縁眼鏡を指で慌てて位置調整してから、部下の指示に従った。
 第1棟の正面玄関から屋敷の中に入る事にする。シルフィは移動中ブツブツ独り言を言っていたが、ミトへの文句では無く、屋敷に入ってからどうするか、頭を捏ねくり回して考えている内容が声になって漏れていた。
 ミトはそんなシルフィの状態を見ながら、ますます嬉しくなる。やっぱり似ていた。今、己の目の前にいる白銀のショットガンを掴んだ女性の名前は、シルフィ・コルクラート。彼女は双子。同じ”コルクラート”。性別が違うから二卵性双生児だろうけど、”2人”は見た目が非常に似ていた。まるで一卵性双生児のように。そして、今の彼女。中身も物凄く似ていた。
 最初は”あの人”と真逆で非常に冷たい人だと思って嫌いだった。だけど今は違う。瓜二つのように似ていた。パニックになると冷静さが無くなって、更に若干変な思考になる所。
 ーー彼女じゃ無い”あの人”も数ヶ月前、ヒュウラとしていた北西大陸での亜人保護任務中にヒュウラが魚に誘拐されてパニックになった時、『川の水を全部抜け』という滅茶苦茶な指示を、己ら現場部隊の部下達にしてきた。そしてヒュウラが忽然と消えた現場の川で延々と潜っては浮き上がって息を吸って潜るを繰り返し、『通信機で首輪から出る発信機の電波を拾って位置を確認したら良い』と、側に行って言ってあげるまで、ヒュウラを自分の身体だけで探し続けていた。ーー
 そんなギャグみたいだった当時の状況を思い出した。シルフィへの感情が、ミトの中で大きく変化する。

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