Bounty Dog【Science.Not,Magic】63-64

63

 ーー東南地帯ではハリマウォ、中央大陸では虎人(フーレン)と呼ばれているらしい此の虎の亜人は、ガレージセールをしていた心臓病持ちのお婆さんが言っていたような、凶暴性は微塵も感じなかった。母親に襲われ掛けて咄嗟に母親を撃ち殺して拾った此の子は、私が母親を殺した”餌”であるにも関わらず、私に初めから懐いていた。
 産まれた時から良く食べ飲みし、良く動いて良く笑う、愛くるしい子だった。私が幼い子供の頃、猫という生き物を其処らで当たり前のように見ていたが、猫は何時の間にか死に絶え、革製品か剥製しか今は明瞭な姿が分からない。
 猫が絶滅した理由は、世界中の人間が猫という生き物に飽きたからだそうだ。バグフィリィも猫科だが、動物の虎を含めて幸い、凶暴性が非常に強い故に人間の脅威になれているお陰で、数が少ないものの、今も無事に人間の手を逃れて生き残れているのだろう。
 猫にも亜人が居るらしいが、彼ら彼女らは今尚も人間達から理不尽に乱獲されているそうだ。私も理不尽なエゴを言ってしまって申し訳無いが、尚更に此の子が猫では無く虎で、良かったと思っている。ーー

 猫の亜人がニャーと鳴いた。紙コップに入ったリンゴジュースを一気飲みする。己のおやつを楽しんでから、ミトから貰った苦いブラックコーヒーをNOノー言いながらチビチビ飲んでいる、甘い苺お預け護衛担当保護官にニャーと鳴いて挨拶する。
 コノハが苦いコーヒーと戦いながら挨拶を返すと、リングが笑顔でもう一度ニャーと鳴いて、シルフィにもニャーと元気な鳴き声で挨拶した。猫の亜人である彼女を特別保護官にした、国際保護組織亜人課保護部隊長は真顔でリングの顔を見つめると、マイペースな猫の鳴き声を数回聞いてから、猫と猫の護衛保護官にも指示をした。
 ミトと紅志とセグルメントは、其の場に居なかった。指示を聞いたリングがニャーと応答の鳴き声を上げて、コノハからコーヒーを取り上げる。NOという言葉の静止を無視して、黒い未知の飲み物を一気飲みした。食いしん坊の猫がギニャーと悲鳴を上げる。
 香りは食欲を唆るが味は非常に苦い飲み物を一気に吐き出してコップを投げ捨て、ブニャブニャ怒り出した猫の飲み散らかしを、上司に指示をされたルシパフィが後片付けする。シルフィがブニャブニャ煩い猫を叱咤して黙らせてから、コノハと一緒に再度指示をした。リングがニャーと鳴いて、コノハを背負って未知の土地での任務に旅立つ。先に旅立った3人の人間達と同じように1人と1体の背中を見送ると、猫が地に吐き捨てたコーヒーを砂で固めてビニール袋に入れていたルシパフィに、空になった己の紙コップを渡して新たな指示をした。
「悪いわね、私達も動くわ。適当な所で1つ、大型をレンタルして頂戴。思いっきりタフな子。飛行機に乗せても良いように、許可も一緒に取っておいて」

64

 ーー私はあの子を人間の子供のように育てたが、人間だったらもっと良かったと、一度もあの子に思ったことは無い。
 人間同士にも厳しく理不尽な掟がある。人間になってしまえば人間の掟という渦潮に放り込まれて、最悪死ぬまで溺れさせられてしまう。
 私のように…………。ーー

 ヒュウラに迎えがやって来た。人間の料理の臭いを避けて、浜辺の隅で身を伏せてヒュウラは、良く知る人間に直ぐ見付かる。
 仏頂面で相手を見ると、相手も身を伏せてきて、耳に付けた新品のレシーバーで誰かと会話をしてから、蟹に襲われて今も血が流れ出ている狼の足を治療し始めた。礼を言わず反応もせずに、されるがままに狼は治療を受ける。綺麗な水で傷口を拭き取られ、軟膏を塗られてから包帯を巻かれると、ヒュウラは相手に背負われた。
 ヒュウラは相手よりも体重が軽い。人間の女よりも体重が軽い狼の亜人を背負った相手の人間に一言も喋り掛けられず、ヒュウラは背負われたまま浜辺から半島の内部へ向かっていく。
 初めは仏頂面だったが、進行先の景色を見るなり金と赤の目を大きく見開くと、ヒュウラは鼻を摘んで息を止めた。人間は亜人の苦手なモノなぞお構い無しに、道路を渡って、繁華街に入る。街に入るなり、人間の料理の臭いが襲い掛かってきた。全力で臭うディムソム(点心)の蒸気を顔全体に直撃で浴びて、ヒュウラは瞬く間に気絶する。
 気絶した狼を背負った人間は、超偏食亜人が気絶しても全く気にしない。相手が軽い事を利用して背負い姿勢から肩に掛けるラフな担ぎ方に変えると、繁華街の露店エリアを通り抜けるまでに『チンパン』という中央大陸東部の半島特有のあんまんを5つ、露店の1店舗で買って、食べながら進んで行った。

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