Bounty Dog 【清稜風月】129-130

129

「ハアイ!猟師君、ナイス・トゥ・ミー・トゥ(出会えて嬉しいわ)!!マイネーム・イズ・コノハ!ノウじゃ御座いません。YES!マイネーム、イズ、コ・ノ・ハ!!」
 睦月は返事も反応もしなかった。現在己の眼前に居る人間の女性は白い迷彩服に短い西洋鎧を付けた格好をしており、黄色い肌と茶眼をしていて、少し長い黒髪を高い位置でツインテールに結んでいる。
 見た目は己達と同じ櫻國人だが、服と雰囲気は完全に西洋人だった。日雨の家という現場に登場したコノハ・スーヴェリア・E・サクラダは、居間の座布団の上で正座をして保護対象(ターゲット)の1体である超希少種の虫の亜人に用意して貰った温かい緑茶入りの湯呑みを手に持ち、淑やかに中身を一気飲みする。もう1体の保護対象兼激推し狼は虫と一緒に居ない空間で、睦月と向かい合って座っている国際保護組織の亜人課現場部隊保護官は、若干土の臭いが混ざってしまったフローラルの香りを全身から漂わせながら、櫻國人の青年に向かって微笑み顔で話し掛けた。
「YES、事情は聴きました。KとSという方々については私も存じてます。では早速、私コノハはマイダーリンこと私の希少種ヒュウラ君からお受けしました、特別任務に移ります。どの国の資料からお調べするの?私は世界共通語である北東大陸連邦国語は母国語なのでペラペーラ、そして上司の影響で、北西大陸上部の某国独自語をちょい齧り致しております」
 睦月はヒュウラが連れてきたコノハという女性保護官に、相槌を打ちながら思考に耽る。
 ーー変な人だな。ーーと、心底に思った。相手の名前はコノハなのでKに該当しているが、変な人過ぎるので容疑者から速攻で外した。

 コノハは極めて変な人だったが、仕事は律儀にこなしてくれた。彼女が所属する国際保護組織で彼女と別の課に居る睦月の”腐れ縁”が日雨の家に残している民族・文化に関する資料の内、世界共通語で書かれている部分をテキパキと翻訳してくれる。
 コノハは現場担当保護官である為、”あいつ”同様に世界中を飛び回って任務をしている人間だった。北東大陸は8割の情報を、中央大陸と北西大陸に関しても6割程の情報を資料と現場での体験で得ている知識で睦月に教えてくれた。
 ヒュウラと日雨は、暇潰しの為に縁側で一緒にあやとり遊びをしていた。人間の事情に無関係である2体の亜人を放置して、人間2人は世界の人間に関する民族調査を続ける。「上司に依頼すれば南西大陸中東部の情報も手に入れられる」と言ってきたコノハに「世界で最も危険だと有名で自分も知っている紛争地帯の情報は不要だ」と返事した睦月は、口元に右手の親指を当てて、大まかに絞り込んだ数国の資料を見下ろした。
 北西大陸の国が怪しいと直感で思う。西洋の隠密が活動していた事が”表立って”有名な北西大陸東部にある某国が1番怪しいと思った。だがコノハが容疑に掛けた某国について「余りにも世界で有名になり過ぎてしまっている独裁軍事国家の歴史イメージを喪失させる為に軍を無くし、星と動植物の環境保護・現地人と移民の福祉整備に積極的な平和主義国家になっている」と音程が非常に高い声で早口気味に否定してきた。
 此の国のスパイは”絶滅”していると判断した睦月は、北西大陸西部の”情熱と自由の国”ごと『櫻國スパイ手配容疑国』から除外した。変な人だが有能な人でもあるコノハは、資料を翻訳したメモの束を畳の上に置いて深い溜息を吐く。キャーキャー喜んでいる虫の亜人の横で高度なあやとり作品を作り上げている激推し狼亜人の背を一瞥すると、資料の山を挟んで向かい合っている睦月の顔に視線を戻して呟いた。
「NO、NOだわ。これだけでは曖昧過ぎる。相手の出身国や人格が明確に分かるような文書が欲しいわね。入国書類とか、手紙とか」
 資料を丁寧に重ね乗せながら、コノハは真顔で睦月の顔を凝視した。ストライクゾーンに入ってはいるが”私の希少種”と”私のサムライ”と9班に居る現在ロックオン中のイケメン保護官よりは気分が上がらないNOイケメン・YESフツメンの櫻國人猟師に、コノハは民族文化も保護対象である国際保護組織のベテラン保護官として、至極真面目に話し掛けた。
「文章は口に出して喋る言葉と同じくらい個性が出るのよ。猟師君、KかSが書いた文書を持ってる?オア(もしくは)、文書が手に入れられるような人を知ってる?」
 睦月は思考に耽た。町の港にある入出国審査所に己が再度行っても、何の権力も持たない庶民である己に担当職員達は個人を特定するような機密情報を絶対に閲覧させてくれないと確信する。
 ーーやっぱり帝族の二人の何方かに、助力をして貰う必要がある。ーー睦月は暫く悩んでから、資料とメモを持って立ち上がったコノハを呼び止めた。己も立ち上がって資料の束を抱えると、コノハに向かって真顔で言葉を返した。
「そうだね、それは当たり前。承知しました、あの人に依頼します。無礼極まりないが……仕方無い」

130

 睦月は1人で日雨の家を出た。ヒュウラは前科者で信用出来ないので『変な人の方が未だマシだ』と強く思い、コノハに日雨の護衛を依頼した。
 コノハが快く応じてくれたので、絶滅危惧種の亜人を預けて単身、山を下りる。暫く歩くと、少し時間が掛かったが助力を依頼する相手の家まで辿り着いた。巨大な家の外門で見張りをしていた人間の1人に話し掛けると、十数分待たされてから、見張りの人間が家の中から戻ってきた。
 睦月に相手から受けている伝言を話す。返答を聴くなり、睦月は目を大きく見開いた。

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