Bounty Dog 【14Days】 48-51

48

 『世界生物保護連合』3班・亜人課の保護部隊が降り立った場所は、中央大陸のとある国にある、霧に覆われた荒地だった。底の深い谷も険しい崖も無いが、地面に目立つ草木は生えておらず、黄色味を帯びた岩が丸裸の状態で外気に晒されている。
 海産物を干す時に使うような厚手の漁業網が、かつては人間が暮らしていた民家だったと推測する、今は崩れかけている木造の小屋の側に建てられた物干し竿に掛かっている。何かに滅ぼされた村のような集落の跡地を、サブマシンガンを構えて照星(フロントサイト)を覗き込みながら、ミトは腰をやや落とした姿勢で移動する。銃に付いた鉄の輪越しに見えているのは、巨大な斧の刃だった。腕を組んだヒュウラが先行して歩いている。
 首を仕切りに左右に向けては、景色を観察している。人間のモノに好奇心が擽られているのか、ヒュウラは道から外れると、物干し竿から垂れている網を手に掴んで凝視する。
 白銀のショットガンを構えながらヒュウラの前を歩いていたデルタは、踵を返してヒュウラを捕まえに行く。仏頂面で掴んでいる人間の道具について尋ねたさそうに視線を注いでくる亜人の青年に、保護官は無言で網を強引に手から引き剥がして、横から鳩尾を抱えて後退りしながら引き摺った。
 強制的に道に戻してから、拘束から解放する。ヒュウラは突っ立ったままデルタを無表情で見つめると、眉間に皺を寄せているデルタは、ワザとゆっくりと言葉を発した。
「任務が終わればアレが何なのか教えてやるから、今は俺の言う事を聴いて付いてこい。ラグナル保護官、君もヒュウラが脱線したら連れ戻すように。此処はこいつにとっては、誘惑が多いようだから」
「了解しました、リーダー」
 ミトは敬礼してから、銃に付いた輪を再び覗き込む。ヒュウラは暫くデルタの顔を眺めていたが、相手が前方に振り返って移動を始めると、ミトに背後を護衛されながら跡を付いていった。

 集落の跡地を離れて暫く歩いていくと、前方に水辺を見つけた。直径数十キロはありそうな大きな湖で、海のように果てない空間に無数の魚が泳いでいる。
 腐って所々解れた漁業網が、7割ほど水の中に沈んでいる。隙間をトンネルのように潜っていく魚の群れを岸の縁で伏せながら眺めているヒュウラの横で、同じく伏せているミトは、人間の創造物に興味津々な亜人の青年を観察した。視線に気付いて表情無く振り向いてきた相手に、笑顔を返す。
 大きめの魚が解れた網の目から顔だけ出す。エラが引っかかって胴が通らず、潜り抜ける事を諦めて網を迂回して反対側へと泳いでいった。ショットガンを背負って2人の背後に立っているデルタは、四方を見回してからヒュウラとミトの肩を片手ずつ使って同時に叩く。同じタイミングで振り向いて立ち上がった2人に鋭く釣り上げた青い目を見せると、ショットガンを上下逆さにして、クワッドロードで麻酔弾を素早く2発装填してから口を開いた。
「休憩は此処までにする。今回のターゲットはCランク『警戒種』だ。生息数的には未だ保護する必要は無いが、今我々が居るこの国は、余りにも大き過ぎて他の国や我々の常識が通用しない所がある」
 デルタは、ヒュウラとミトを交互に見る。巨斧を背負ったまま両手を胴の横に垂らしているヒュウラと、サブマシンガンを上下に振ってドラム型の弾倉の中で踊る麻酔弾がぶつかる金属音を響かせているミトを見つめると、話の続きをした。
「故に、例え『警戒種』でも違う意味となってしまうが、この国の人間達を警戒して、保護を行う必要が出来たのだ。此処まで未だ人の姿を見ていないが、ヒュウラ。お前は俺達が護衛していても、特段に人間に用心しろ」
「御意」
 ヒュウラは返事する。デルタはミトに向かって言う。
「ラグナル保護官。君も、無論私も部隊全員もだ。この国の人間達に会っても安易に信じず、警戒するように」
(まるで密猟者か詐欺師の巣窟にいるみたい)ミトは返事した。「了解しました、リーダー」
 デルタはショットガンを片手に掴み、空いた手でポケットから通信機を取り出す。機械のボタンを耳に当て、暫く誰かと通話をした後で、ボタンを押しながら機械を耳から外して、目の前にいる少女と亜人の青年の顔を見つめた。
「他の部隊の移動も順調だそうだ。では、私達も行こう。ヒュウラ、頼むから二度と脱線するなよ。任務が終われば、気になったものは全部教えてやるから」

49

 ヒュウラは巨斧を背負って1人で走っている。黄色い砂煙が岩岩の隙間から吹き出しては、足元で渦巻いた。先に向かえば向かうほど霧が一層濃くなる。湿った空気に生き物の住む水辺特有の生臭さが含まれている。
 先にある岩と岩の間に幅が長く底の深い割れ目があった。視力が殆ど機能しない状況にも関わらず、ヒュウラは止まる事無く飛び越える。
 首に付いた、アンテナが1本伸びる発信機からデルタの声が聞こえた。
『F66からF76までショートカット。以後は絶対に飛ぶのは禁止だからな、特に此処は視界が悪過ぎる』
「御意」
 ヒュウラは返事をして、次に見えた割れ目は飛ばずに迂回する。蛇のように曲がりくねる坂を高速で駆け抜けると、やがて広い場所に辿り着いた。辺りを覆っていた霧が徐々に晴れていく。
 阻むもの無く曇った空が頭上に広がる、一枚岩の上であるその場所の中央に、背の非常に低い男が1人立っていた。ボロ切れのような紺色のローブを着たその生き物は一見人間のような見た目をしているが、にやけたような表情をしている丸い顔に付いた目に瞼が無く、黒い硝子玉のような2つの目に生気が全く宿っていない。
 端が耳まで届きそうな程に裂けた口の中に、鋸のような歯がびっしりと生えている。仏頂面のままポケットから打撃式の麻酔針を取り出したヒュウラの首輪越しに、デルタはカメラで相手の特徴を確認してから、ヒュウラに声を掛けた。
『見つけたな。取り敢えず今回は3体保護する。ターゲットは陸鮫族(くがきょうぞく)、肉食だから気を付けろ。目に付く生き物は、何でも餌だと思っている』
『リーダー!そんな危険な種を超希少種に任せるなんてーー』
 デルタの側に居るミトの声が首輪から聞こえてくる。ニヤニヤ不気味な笑顔を向けてくる鮫男に声掛けも反応もせず、向かい合ったままヒュウラは麻酔針を逆手に持って構える。
 流れていた沈黙を、デルタの声が破った。
『最悪、最悪死にそうになったら、今回は仕方が無いから蹴っても良い。それまでは絶対に蹴るなよ。お前の蹴りは一撃で、どんな生き物も即死させるんだ』
「御意」
 金と赤の目がやや釣り上がる。デルタは首輪越しに指示をした。
『任務開始だ。これよりターゲットの1体目を保護する』
 鮫男は、眼球が飛び出ているような黒い不気味な目を向けたまま、鋸のような歯を大きく見せて笑った。豪華な食事を目の前に置かれている獣か化け物のように、裂けた口から涎を垂らす。
「大きなディナー。ちょっと硬そう」
『ヒュウラ、さっきお前を放つ前に説明したが、この種は性格がかなり狡猾だ。悪知恵を働かせてくるぞ、十二分注意して挑め』
「御意」
 返事をして、ヒュウラは麻酔針の先を鮫の首に向ける。左右にパックリと割れたエラのような筋が3本ずつ付いている狙いの場所が膨らんで縮み、膨らんで縮むと、鮫男は動いた。甘えた子供のような高めの声を出しながら、ゆっくりと彼方へと歩き始める。
「鬼ごっこしよー。わーい、鬼さあーんこちらー」
 デルタは、首輪越しに指示をした。
『ヒュウラ。早速だぞ、騙されるな。罠か群れまで連れて行って捕食する気だ。此方の罠に掛けるぞ、指定するポイントまで連れてきてくれ』
「御意」
 ヒュウラは微動だにせずに仁王立ちをしている。背負っている巨斧を麻酔針を持たない側の手で掴んで鮫の前に構えると、そのまま踵を返して歩き出した。徐々に足の速度を上げていく。
 ライダースーツのような服の腰に巻かれている赤い布の端が、風に乗って大きく靡く。鮮血の色に似た腰布を見て、鮫男は笑いながら興奮し始めた。
 歯を噛み鳴らして不気味な打音を出して、弾丸のような速さで接近してくる。ヒュウラは振り返る事無く全力で走り出した。
 鮫は甘えた声で呟いた。
「ぼくが鬼さあん?良いよー、ぼくだけのディナー」

50

 一枚岩を過ぎ去ると、霧が再び深くなっていく。足元のおぼつかない空間を疾走するヒュウラの背後を、陸で暮らす鮫の亜人が猛突進してくる。
 蛇のように曲がりくねった坂道を高速で駆け上がると、岩と岩の間が割れた、深く幅の広い溝を飛び越えた。鮫も同様に付いてくる。揺れ動くアンテナ付きの首輪から小さな溜息の音が発せられると、囁くような大きさでデルタの声が指示を与えた。
『地点はF30。其処に電撃装置を付けた誘い檻を設置している。挑発や誘惑には耳を貸すな。誘導(ナビゲート)する、真っ直ぐ来てくれ』
 返事も反応もせず、ヒュウラは斧と麻酔針を片手ずつに掴んで走り続ける。鮫は口から涎を垂れ流しながら追跡してくる。モンスターのようなターゲットに振り向かずに、ヒュウラは2つ目の岩と岩の割れ目の直前で左折した。霧で殆ど周囲が見えない。
 手探り足探りで岩地を猛進する。首輪からデルタの声が響いた。背後の鮫にも聞こえるように、ワザと大きな声で発せられた。
『F60を通過。其処から障害は無い、延々と真っ直ぐ走れ!枯れた大きな木が見えたら直前で止まれ!曲がらずに直進だ!!』
「御意」
 ヒュウラは返事して、指示に従う。追跡する鮫男の口が大きく開いた。滝のように涎を出している裂けた口が、不気味な三日月形になった。
「あーあーい、枯れ木の前にもディナー?うふーふんふふーん」
 上機嫌に鼻歌を歌い出す。
 ヒュウラは霧に覆われる空間を全力疾走する。鮫の亜人も速度を落とさずに付いてくる。周囲は足元すら全く見えない。深く濃い白の世界に、生臭い空気が風となって纏わりつく。
 左右に建てられた棒に民家や湖にあったものと同じような漁業の網が掛けられている。甘ったれた鼻歌を奏でる脅威の存在が、背後から徐々に距離を縮めてくる。
 ヒュウラは片手で掴んでいる斧の刃を日差しを遮るような形で斜めに傾けた。鏡のように映る背後の鮫は、裂けた口に並ぶ鋸のような歯を、顎を上げ下げして噛み鳴らしている。
 我慢出来なくなった鮫は、涎が滴る口を全開させて飛び掛かってきた。
「鬼ごっこ飽きた。もう食べるう、いただきまあす!」
 ヒュウラは振り返らずに上半身を伏せて攻撃を避ける。鮫男が目の前まで飛んでくると、蠅叩きのように斧の刃で鮫を殴り潰した。
 幼い子供のような声で、鮫は短い悲鳴を上げた。
「ぷぎゅう」
 顔に付く全てのパーツを微塵にも動かさず、ヒュウラは斧と地面に挟まれて伸びているターゲットを見つめる。斧を持ち上げると、仰向けになったターゲットの首めがけて麻酔針を振り下ろした。
 鮫はにたりと不気味に笑うと、身を足の方向に引く。狙いがズレて口の中に麻酔針が入ると、鮫は口を閉じた。
 麻酔針の外筒(シリンジ)が両断される。
「にがーい。好きじゃないこの味ー、べえー」
 注射器をボリボリ噛み砕いて、口から吹き出された。薬液とプラスチックの破片が涎と混ざって地面に撒かれる。
 ニタニタ笑いながら仰向けに倒れている鮫に、ヒュウラは仏頂面のまま後ろに跳ねて距離を離す。斧を片手に掴んで再び走り始めると、バネのように飛び起きた鮫の亜人が追いかけてきた。
 ヒュウラは何も持っていない側の手で、首輪の背面に付いたボタンを押す。表情も声調も変えずに、機械を通して報告した。
「デルタ、壊された」
『麻酔針の事だな、無論想定内だ。兎に角、そいつを檻まで連れてきてくれ』
「御意」
 返事をして、ヒュウラは猛進する。

51

 濃霧は一向に晴れる気配を見せない。厚い雲の中を脅威を引き連れて突き進んでいるような状況でも、ヒュウラの顔は変わらない。感情の無い人形のような表情をしながら、斧を持ってひたすら直進した。鮫男は瞼の無い目以外の顔の皮膚を皺々に寄せて、閉じた口をモゴモゴ動かしている。
 白一色の空間に、何かが弾ける音が聞こえた。首輪から、デルタの声が指示をする。
『現在位置、F18からF12。ヒュウラ、行き過ぎだ。逆方向に戻れ。罠は走っていたら右手に見えてくる。霧が濃いが、電撃の音と光が目印になるだろう。俺とラグナル保護官も其処に居る』
 ヒュウラは返事をせず、足を止めず、目を僅かに釣り上げた。デルタは言葉を続ける。
『死にそうになった時、蹴る前に俺かラグナルを呼べ。ターゲットを麻酔弾で狙撃する。お前が最優先だが、ターゲットの喪失(ロスト)は出来れば避けたい』
 鮫男は顎を開閉して歯を鳴らした。口を大きく開けて、ヒュウラに飛び掛かってくる。ヒュウラは足を急に止めて斧をラケットのようにして鮫を上に打ち上げた。鼻血を出しながら鮫はボールのように天に飛んでいく。
 180度身体の向きを変えて、ヒュウラは停止した。鮫が頭上から口を開けながら落ちてくると、横に逸れて回避する。地面に柔らかいモノが潰れるような音と甘えた子供のような悲鳴が聞こえると、次第に歯を噛み鳴らせる音に変わった。ヒュウラは横目で一瞥してから走り出す。ターゲットが追いかけてくる。
 再び走り続けていると、右手で稲妻のような紫色の線が霧の中で踊っていた。電撃装置の付いた檻の場所が推測出来た時、
 背後に居る鮫が、突然喚き出した。
「あーん、痛いー。さっきペシーンとバシーンされて顔が痛あーい。痛あーい、えーん動けなあい」
 ヒュウラは仏頂面のまま、足を止めて振り返る。斧を片手に掴んだままターゲットに歩み寄ると、顔が真っ赤に腫れた鮫男が霧の中で忙しく転がっていた。駄々を捏ねる子供のように、開けた大きな口の中に両手の指を入れて喚き散らす。
「べえしたのも、ちょっと口に刺さったあ。痛あい、もう動けなあいー。あーん辛あーい、ディナー、バイバイさようならあー」
 鮫は地面に寝転がったまま、動かなくなる。ヒュウラは首輪の背面に手を当てて通話ボタンを押そうとするが、直ぐに手を離した。無言の無表情でうつ伏せになっている鮫を見下げる。
 大きな丸いボールのような岩の塊が、周囲に散らばっている。全く動かないターゲットの身体に巨斧の刃を添えると、柄を両手で掴み、刃で鮫の亜人を転がし押した。
 ボールのように丸まった鮫男は、強制的に回転する。
「ごろごろーゴロゴロー、わあーいコレ楽しい」
 延々と転がりながら何故か嬉しそうにはしゃぎ出したターゲットに、ヒュウラは反応しない。右手に見えている、閃光を発しながら宙で舞い踊る稲妻を目印に、霧の中を突き進むと、
 斧を大きく引いた。身を捻って力の限り斧を振ると、鮫ボールが打たれ飛んでいった。
「しゅー」
 短い声を出した存在が一瞬で消え去ると、霧の中から金属に重い物がぶつかる音が響く。ヒュウラは斧を掴んだまま暫く静止していると、首輪からデルタの声が聞こえてきた。
『入る勢いが良過ぎるのが、非常に気になるが』
 低い声でぼやかれてから、話の本題に入る。
『ヒュウラ、良くやった。檻に入ったターゲットは俺達が回収する。視界が悪過ぎるからな、悪いが其処で待機していてくれ』
 返事も反応もせず、ヒュウラは静止する。掴んでいる斧の先を一瞥して、刃の側に何も無いのを確認してから斧を背負った。その場に胡座を掻いて座る。
 暫く身動ぎ一つせずに待っていると、周囲を包む霧がますます濃くなってくる。彼方の電撃柵から放たれる稲妻が、白いぼんやりとした光に変わった時、
 ヒュウラの横から鮫男が飛んできた。

 大口を開けた鮫がヒュウラの首に噛み付く。金属製の機械の首輪に鋸のような歯がぶつかると、数本が割れた。鈍い音を響かせて、血飛沫と共にヒュウラの頬に浴びせられる。
 鋭い刃のような歯の欠片が、頬に幾つか切り傷を付ける。目を限界まで見開いたヒュウラが反射的に奇襲者を手で振り払うと、地面にバウンドしてから立ち上がった鮫男が、ニヤニヤ笑いながら口に両手を入れて大袈裟に痛がる素振りを見せた。
「あーあーい。硬いー、はっは折れたあ。でも直ぐ生えるからへっちゃーらあ。うふふーんふーん」
 鮫男が鼻歌を歌い出す。口を大きく数回開閉すると、鋸のような歯がみるみる内に生えてきた。割れた歯を新しい歯が押し上げて、抜けて地面に転がり落ちる。
 目をやや釣り上げたヒュウラが巨斧を手に掴む。鮫は愉快そうに身体を揺り動かしながら鼻歌混じりに甘ったれた声で歌い出した。
「ふふんうふふんー、しゅーしたのはーお岩の玉よー。うふふんふーんディナー。足かあーらあー、いただきます!がぶー!!」
 鮫が弾丸のような速さで飛び掛かってくる。
 ヒュウラは斧を盾のように構えた。鮫が刃にぶつかって地面に転がり落ちる。直ぐ様に起き上がって飛び掛かってきた鮫に、ヒュウラは足を振り上げた。踏み潰そうと力を込めて振り下ろす。
 鮫はローブから鱗のように硬化した皮膚にビッシリ覆われた足を出して地面を踏み蹴り、後ろに飛び跳ねた。ヒュウラの足が地を踏んだ瞬間に、大地が振動する。地面の一枚岩が砕けて足形の溝が出来ると、鮫は瞼の無い黒い目を潤ませながらヒュウラを見た。驚愕して小さな身体を震わせながら声を出す。
「えーん、足、凄い怖あいー。ガブリは頭からにするう。がぶー!がぶがぶー!!」
 鮫が頭目掛けて飛んでくる。目を釣り上げたヒュウラは鮫を打ち返そうと斧をバットのように構えた時、
 謎の存在に、突然足を掬われた。
 刹那に宙へ投げ出されたヒュウラの胴を、謎の細い両腕が支える。黄色い袖の口に赤い紐飾りが付いた服を着た、人の腕がヒュウラを後方に投げ飛ばすと、
 若い女の声が、霧の中から聞こえた。
「交代」