Bounty Dog 【清稜風月】55-56

55

 ヒュウラの櫻國滞在任期は、あっという間に残り半分になった。この国は山も人間の町も初めはピンク色や黄色の花々で鮮やかに彩られていたが、たったの2週間程で自然の部分は殆どが茶か緑の色ばかりになった。
 16日目、17日目もヒュウラは睦月・スミヨシと一緒に”麗音蜻蛉狩猟情報提供者”と『黒い本』の送付者を探し回った。日雨は睦月達が不在の間は家から一歩も出ないようにしていたが、実際は1体でコッソリと山から食べ物を取りに行っているようで、夕食(ゆうげ)に新鮮なキノコや山菜、木の実や野花・川魚で作られた料理が並べられていた。
 睦月は日雨の勝手な行動に怒って叱咤したが、次の日に同じ事をされると、呆れて幼馴染の虫の亜人と一切口を聞かなかった。護衛役を不貞腐れさせても全く精神にダメージを受けていない絶滅危惧種の虫の亜人はケラケラ楽しそうに笑いながら、16日目と17日目は飯だけ多量に食べていたが、異常はそれだけで他は至極元気だった。
 ヒュウラが日雨と睦月と櫻國の山に建つ一軒家で暮らし始めて17日経った、今宵の夕食後の甘味は珍しいモノだった。赤い楕円形の小さな果物が皿の上に少量置かれている。日雨に尋ねると『茱萸(グミ)』という植物の実らしい。見た事が無い木の実だったので櫻國の固有種かと尋ねると、睦月が首を振って教えてきた。
「世界中に色々な種類のモノがあるよ。この国では西洋化時代から珍しくなっている植物だけどね」
 木の実はやや渋かったが、甘みととろみがあって果物のようだった。茱萸の実と緑茶だった甘味の時間が終わると、日雨に背中を押されて縁側に連れて行かれる。ヒュウラは内心ウンザリする。既にネタ切れなのにまた『話をしろ』と我儘強情虫女にせがまれると思った。
 テレビで知った人間についての知識か、中東の子分モグラが喚いていた服の大特価セールという宇宙語か、支部にあるミト・ラグナルの汚部屋が如何に汚いかのいずれかの話にしようと考えながら縁側に座ると、今日は睦月が日雨の側に居なかった。虫と少々喧嘩している虫の護衛役は、己に虫の安全を任せて家の中で銃の手入れをしていた。
 ヒュウラと日雨は亜人達だけで人間の家の縁側に座る。日雨に引き寄せられた虫の種類も変わっていた。何の虫かは分からないがジージー声はキリキリ声になって、家のすぐ側の茂みで大合唱をしている。
 季節の移り変わりが早い東の島国は、気温もたった2週間で随分と暖かくなった。肌寒いから丁度良い涼しさになった夜風が2体の亜人の体に吹き当たると、日雨はニッコリ笑ってヒュウラに言った。

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