Bounty Dog【Science.Not,Magic】39

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 此の世界で、今から数百年前。世界中の人間達が『インターネット』と呼ばれる通信網を利用して生活をしていた。電話用機器を改造して作られた小型通信装置を1人の人間が何台も所有しており、産まれたばかりの赤ん坊にも利用させる親が何処にでも極々当たり前に存在していた。
 人間の生活が通信によって劇的に改善された一方で、人間が作る物全てに当てはまる”悪用”も徐々に多発するようになった。通信が一般人に普及されて直ぐの頃から、通信網を利用して不特定多数の人間が他の不特定多数の人間に対して手当たり次第に精神的虐待を行い、有名者達に対しては特に手当たり次第に否定と侮蔑と出鱈目な悪業の噂を流しに流して人間としての生活に大きな支障を与えて破滅させ、通信を使った超大量自殺誘導による超大量ノイローゼ自殺と公的機関・企業の経営妨害テロによる運営停止での経済の混乱が、数多の国で社会問題になった。
 詐欺、虐待、暴力、自殺幇助、誘拐、窃盗、強盗、殺人、売買春、テロ、兵器・麻薬・臓器・偽貨幣・偽製品・老若男女問わない人身諸々の闇売買から絶滅危惧種の生物素材もしくは生き物自体の闇売買、果ては”個々の独裁”による国家腐敗、外国からの”現地人非認知の植民地化”まで、ありとあらゆる犯罪及び国の侵略活動にも堂々と利用されるようになった。『ラーテン・エレクトロニクス・ウォー(腐った通信戦争)』と人間の歴史に深く刻まれた、新たな形の世界大戦が起こるキッカケにもなった。
 根の葉も無い噂による悪質な魔女裁判と民間人による残虐な公開死刑が復活し、暴動・略奪・集団強姦と内戦が世界中で勃発し、結果として世界人口の5分の3が”これまで一切面識が無い地元の狂った人間達”によって監視されて幸福を奪われて殺される人的大災害まで発展した。
 数個の先進国と其の地に住んでいた人間達が通信で思考が狂った人間達によって喪失し、世界人口が5分の1まで減った時に、各国の頂点に君臨する権力者達が”己の国だけを保護する為に”動いた。南西大陸中東部『アグダード地帯』のようにハイテクな通信機が民間人に行き渡っていない場所は無視され、東の島国『櫻國(おうこく)』のように外交ごと情報を遮断した国も幾つかあるが、多くの国々は通信による人類滅亡を防ぐ為に、国同士が結束して通信に対する法律を『国際法』に加えた。
 一部の認定組織所属者以外の人間が無断で通信機器を所持していたら見付け次第其の場で斬首か銃殺か火炎放射器で処刑されるという重い刑法を世界共通で施行した後、反対運動を起こした人間達も残虐な手段で1人残らず公開処刑。中立国を含めて敢えて行われた世界的”通信狩り”時代で民間人達からハイテク通信機器を1台残らず取り上げる事に100年程費やして漸く成功し、数十年が経過して、今に至っている。

 現在は法律が多少緩くなっており、軍隊と治安組織・機密組織・国際認定組織所属者と”闇のマーケット関係者”以外の一般人でも、高度なプログラミング技術とテクノロジー知識を持つ人間ならば”己で部品を全て組み立てて作ったハイテク機器”を使って、誰も邪魔者が居ない快適な通信世界で自由に世界中の通信機器を操る事が出来る(※犯罪である)。だが一般の人間の殆どは、情報に対して強制的に退化した。”まざーぼーど”という機械部品の存在すら知らずに、国家から唯一許されたメールと電話だけ出来る携帯通信機器と、メール・オフィスソフト・デザインソフトしか使えないパソコンを使って生活している。情報源は各国によって徹底的に管理・選別された新聞と雑誌とテレビ放送だけしか無い此の世界では、ファクシミリも良く使われていた。
 ファクシミリは大進化を遂げており、手の中に収まる小さな機械になっていた。サイコロのような四角い機械が、独特の電波音を出しながら白い紙の上で踊り出す。底面に付いたレーザー式の焼き型が受信した文章を紙に焼き書き綴った。文章を書き切って停止した超小型ファクシミリ機械は、己から紙の外に走り出て電源ポートに移動する。
 出来上がった文書を、ひとつの大きな影が腕を伸ばして手に持った。腕に黒い縞模様付きの細かな毛が生えている謎の生き物が、瞳孔が爬虫類のように細長い灰色の目で文書を見つめながら内容を口に出して読む。
「ケイカク、ジュンチョウナリ。ユソウヒン、トドキシダイ、ツギノケイカクヲカイシスル。バグフィリィハタイキ。……オイ、待機」
 バグフィリィという名の生き物は、丸と棒線が組み合わさった人間の独自語をスラスラ読んでから、尻から生えている長い尻尾を揺らした。腕と同じ縞模様の毛が生えた長い尻尾が月明かりで金色に輝くと、影は大きな唸り声を出した。
「ガルルル、ガルルル!オイ、待機!!」
 汽笛が甲高く吹き鳴らされた。新たな亜人種の雄体がガルルル、ガルルル、唸り声を出すと、遠くの場所でグルルル、グルルル、別の唸り声が聞こえた。

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