Bounty Dog 【清稜風月】18-19

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 睦月は己が”捌いた”訳では無い、狼煙の近くにも居ない謎の外国人の死体を2体見付けた。相手はやはり旅行者を装って此の国の民族衣装を着ているが、何方の死体も日雨を狙う密猟者がほぼ毎回持ってくる狙撃銃では無く、オートマチック式の小さな拳銃を掴んでいた。
 喉に開けられている死因となった銃跡も、強力な拳銃から放たれた弾丸が作り出したモノのようだった。睦月はますます今回の”捕り物”の異常さに困惑する。だが毎度している何時もの”捕り物”同様に、密猟者退治は余り時間を掛けていられなかった。
 日雨の種『麗音蜻蛉』が世界中に居る全ての亜人種の中でも最も弱くて極めて繊細である事は、今日初めて此の国に来て日雨に出会った狼の亜人よりも遥かに深く理解している。故に事前に仕掛けている彼女への”応急処置”が重要な役割を担っている事も、此れ迄に幾度も行った”捕り物”経験の中で充分に理解していた。
 日雨にこの山で出会った子供の頃から、睦月はもう1人の幼馴染と十数年間、不定期に”捕り物”という名の密猟者狩りをして日雨を護っている。今は親友で相棒のような存在であるもう1人の”用心棒”が不在だが、1人の人間と1体の亜人が、助っ人として己を手伝ってくれている。
 だが、それでも今回の”捕り物”は非常に達成が難しかった。何時もは密猟者が少ない上に日雨を直接銃で狙撃してくる人間のみか、狙撃担当者の方が多い。だが今回は密猟者の数が多過ぎる上に、自然のモノでは無い不浄な人工物質を多量に取り込むと途端に死ぬという麗音蜻蛉の特徴をピンポイントで攻めてこられていた。
 正直、今回は日雨を護れずに彼女を殺してしまうかも知れないと、睦月は酷く焦っていた。2つの存在で助っ人が居る。だがヒュウラの事は本業の猟師業で仲間の猟師達から度々聴く噂話で能力や特徴は粗方分かっているが、もう片方は全く知らない不思議な存在で、何故己の手伝いをしてくれるのか、睦月には人間なのか亜人なのかも含めてサッパリ相手の事が謎で仕方が無かった。
 睦月に全く認知されていないヒュウラの護衛保護官は、性格の癖が非常に強いが上司から指示された密猟者退治任務に関しては、律儀にテキパキとこなしていた。現在、睦月とサクラダ保護官の2人で、密猟者の数を6人まで減らしている。
 だが今回の密猟者側は、狙撃担当者は1人のみだった。後5人も不純物を込めた狼煙をひたすらに上げる担当者が残っている。

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 たった1人の狙撃担当者は、狼の亜人の手の上で踊らされていた。此れ迄は『麗音蜻蛉』が引き寄せる多量の虫が鳴く音のお陰で、避けられるものの非常に上手く撃てていた。しかし今は見当違いの場所に銃口を向けさせられて、標的と全く違う場所を撃たされている。
 ヒュウラの種『獣犬族』は、凶悪な脚力と背筋持ちである他に、頭が非常に賢い亜人だった。ヒュウラは己の種の特性と、己が個人的に強く持っている人間の道具への興味と好奇心で、人間の道具を使って不利から有利に戦況をひっくり返す方法を瞬時に思い付ける存在だった。

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