Bounty Dog 【清稜風月】96-97
96
スパイに、己の生涯の中で最も想定外の信じられない事態が起こった。齢は若いが潜入諜報や暗殺等の難関任務を幾度も完遂させてきた”元人間の幽霊”は、初めから人間では無い存在がしてくる行動だけは”お見通し”出来なかった。
突然、背後から強烈な地鳴りと激しい揺れが生じた。曲輪の陰に隠れていた少年の直ぐ傍を、割れた瓦が飛んでいく。あの狼の亜人については己が現在所属している組織が情報を得ているので、諜報せずとも事細かく教えられて知っている。だがあの雄犬のやる事は、人間がする行動を超越していて余りにも無茶苦茶だった。
無茶苦茶をし始めたのは、亜人だけでは無かった。縦揺れの大地震のような衝撃が背後に起きて直ぐに、今度は鉄砲の弾が己の直ぐ側を通り過ぎる。
弾は城の外から飛んできた。少年は理解不能のまま、綽綽だった己の余裕を瞬く間に喪失させられた。
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