Bounty Dog 【清稜風月】127-128

127

「ヒュウラさん、あのね。あー君とむっちゃんも、ずっと昔に私の群れの虫さん達、探してくれたよ。ヒュウラさんだけじゃ無いよ、私にずっと生きて欲しいって思ってくれる人」
 日雨を背負って一軒家に帰る途中、日雨がヒュウラに背中越しに言ってきた。”ノウ”から奪い取った双眼鏡は、日雨に譲渡している。何時でもまた好きな時に山の外の景色が見られるようにしてやった。山からは一歩も出ようとしないが、日雨は山の外の世界に何時も興味津々だった。
 日雨は己が行けない遥か遠くの場所が見える人間の道具を大事そうに持ちながら、己の為に2人の人間が建ててくれた一軒家に送ってくれている亜人の”友”に向かって話し続ける。
「私の寿命は、産まれてピッタリ25年。でも実際に生きられる時間ってね、皆んなバラバラなんだよ。大人になれずに死んじゃう命も何百年も凄く長生きする命もあるけど、私達麗音蜻蛉だって、25歳になる前に死んじゃう虫人もいっぱい居るよ。私達はたまたま1番長く生きられた時の最期が何時かが分かるけど、自分が何時死んじゃうのかは、どんな生き物も死んじゃう時まで分からない」
 ヒュウラは返事も反応もしなかった。無数の鳴く虫達が追いかけてくる。ノウは追いかけられない状態に己がしていた。日雨は喋り続ける。
「私は3年後に生きられる道のお終いがあるけど、3年後までの間に途中で崩れちゃっていてもね、其処まで毎日楽しく歩いて生きるよ。ヒュウラさんも自分が生きてる自分の道、出来るだけ長く、楽しみながら歩いてね」
 どんなに滅茶苦茶でも楽しめ、お前の一生だ。ヒュウラは手紙で己に指示してきた”準主人”を思い出した。日雨もその人間と同じようにケラケラ明るく笑っている。
「皆んなの生きられる時間が、凄く長いものでありますように。私が大好きな人間さんと亜人さんと色んな生き物、皆んな皆んなこの世界で長生き出来ますように」
 空一面に輝く初夏の星々に、虫の亜人は己以外の生き物達の長寿を願った。日雨の家が目線の先に見えてくる。縁側で腕を組んで仁王立ちをしている睦月の姿も見えた。

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