Bounty Dog 【アグダード戦争】93

93

 銃弾はなかなか背後から飛んでこなかった。既に3発撃ち込まれている己の両足と腰から血が噴き上がって多量に流れ落ち、床に筋を描いて敵への道標を作ってしまっている。
 ヒュウラは仏頂面で痛みに耐えていたが、未だ意識は鮮明だった。やはり致命傷になるものは一つも無く、ワザと避けた場所を撃たれている。一方で、己が抱えて捕まえているモグラの亜人コルドウへは、敵は確実に致命傷になる場所を撃とうとしていた。モグラの言動の何が一体カスタバラクの逆鱗に触れたのかヒュウラには全然分からないが、カスタバラクはモグラを殺したがっている。
 捕獲対象”ターゲット”である、布巻き亜人と化している人間の服と服屋が大好きなコルドウは、無傷の状態で非常に元気だった。被っていた骨のヘルメットが盾になって即死攻撃を防いでからは、担いで走っているヒュウラが『生きた盾』になっている状態だった。カスタバラクは撃ちたくても撃てない状態のようで、大きな2丁の銃を片腕ずつで掴み、両方の銃の口を向けながら険しい顔をして走り追ってくる。
 真後ろにいて姿が全く見えないのに『生きた窒息兵器』は既に気配だけで吸える空気を薄めてきた。ヒュウラに抱えられたコルドウが、オーバーな口の動きで呼吸をしてから呟いた。
「あぎゃ。ああたの腕が疲れるでやんすよ。よいしょでござんす」
 己の背に向かって動き出そうとしたモグラを、ヒュウラは強く抱えて強引に静止させる。独特の悲鳴を上げると共に、銃弾が一発飛んできた。ヒュウラに頭を押さえつけられて頭上を追加した弾を見て、モグラは小さな悲鳴を上げてから、察した。
「あぎゃあああ。あっし、命狙われちょる。あんまりにもしつこかったでやんすからね、怒らせたでござんす。やっぱり”俺”の方が、あのやっちゃは好きなんでそうろうね」
 一人称変えろ変えろ強請りをし過ぎた事だけを反省してから、コルドウはヒュウラに話し掛けた。
「お犬さん。あっし、あっしの仲間のタイサさんの為に、あのやっちゃ、”叱ら”ないといけないでそうろう」
「俺が叱る」
 ヒュウラは口だけを動かしてコルドウに返事をした。額から滲み流れてくる脂汗を拭わずに、言葉を続ける。
「叱る場所が無い」
 コルドウは布巻きの首を縦に振って答えた。
「やんす、やんすう。じゃあ、あっしが大特価セールの特設会場を用意するでやんす。ああたはあのやっちゃ、合図したら会場に連れて来てでござんす。手分けするでそうろう、そんで一緒に、あのやっちゃを叱るでやんす」
 ヒュウラは目を限界まで見開いた。提案したコルドウは、独特の笑い声を上げながら続けた。「んしゃ。ピーヒョロ、んししっしし。ああたとあっしも、仲間でそうろう」
 全ての階を繋げる穴が空いている、西エリアの部屋の扉が見えてきた。ヒュウラはコルドウの好感度が大きく回復している事を確信して、一言だけ言った。
「友」
 コルドウが嬉しそうに首を縦に振る。ヒュウラに耳元で敵の対策法を伝えると、ヒュウラは仏頂面のまま言った。
「御意」
 カスタバラクがショットガンを撃った。2丁目の武器の最後の一発が部屋の扉に大穴を開ける。ヒュウラは部屋からかなり手前の地点で突然横に跳ね飛んだ。奇怪な動きまでは読まれずに真っ直ぐ撃たれたショットガンを難なく避けると共に、ヒュウラは力の限り、外壁を蹴る。
 太腿を撃たれていて思った力が出せないが、強靭的な脚力が数回のキックで壁を壊した。ヒュウラは仏頂面のまま壁に開いた大きな穴を見ると、
 穴に向かってコルドウを、力の限り投げ飛ばした。

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