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Bounty Dog【清稜風月】

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遠く、でもいずれ来るだろうこの世界の未来を先に走る、とある別の世界。人間達が覇権を握るその世界は、人間以外の全ての存在が滅びようとしていた。事態を重くみた人間は、『絶滅危惧種』達…
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2023年11月の記事一覧

Bounty Dog 【清稜風月】230-231

230

 人間は、亜人達が思っていた以上に狡猾な生き物だった。山に現在居る人間達の中で最も狡猾な人間は、山の中で起こっている状況を全て計画通りだと思って活動していた。
 だが空から突然現れて山火事を消した複数の飛行機は、人間にとって想定外の代物だった。山が焼け落ちようが微塵も計画に異常無いと考えていた其の人間は、此の世界の全ての生き物達を保護している国際保護組織の存在を”今は”全く認識していなか

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Bounty Dog 【清稜風月】228-229

228

 黒縁眼鏡の狼は、シルフィを苦しめる存在では無かった。彼がヒュウラと『霊』を介して伝えてきた事は『線引きしろ』。其れだけだった。
 “線引き”しろ。死による喪失も、保護も、櫻國の山火事と未来の姿も、他の国々と全ての生き物達の命に関わる此の星の未来すらも。人間の世界と野生の世界を”線引き”しろと、黒縁眼鏡の狼は別の狼を介して己達に言ってきた。
 この櫻國という東の海に浮かぶ小さな島国は、得

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Bounty Dog 【清稜風月】225-227

225

 シルフィ・コルクラートが現在聴いている音は、幻聴では無く事実だった。櫻國の山の何処かから、木々が勢い良く燃えている音がヘッドセット越しに聴こえてくる。
 何かの要因で山火事が起きていると勘付いた。亜人種を保護している己は、極めて繊細な体質である麗音蜻蛉にとって、山火事等の災害による清浄な山の喪失も死に繋がる脅威であると認知している。原因は不明だったが櫻國の絶滅危惧種に危機的状況が起こっ

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Bounty Dog 【清稜風月】222-224

222

 ヒュウラにはかつて、自然に起こる現象に対して『決して歪めるな』と警告してきた友が居た。その友は此の世にも冥土にもかつての姿ではもう存在していないが、ヒュウラの思い出の中では永遠に生きている。
 脳内順位に割り当てていないが、名の知らぬ白い魚は今でも大切な友だった。魚の亜人だった彼は7ヶ月前に尾鰭を無くして死に、北西大陸に流れている川に身が溶け流れて、亜人では無い魚達と鳥達と獣達と植物に

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Bounty Dog 【清稜風月】219-221

219

「やれ」
 コノハは突然命令された。命令してきた相手は激推し亜人だった。何を”やれ”ば良いのか、言葉だけではサッパリ分からない。
「やれ」
 ーーだから、何をやれば良いの?ホワイ?。ーー激推し亜人ことヒュウラ君が「やれ」を己に何故突然言ってきているのか、初めの数分間は全くの謎で分からなかった。
 だがコノハは眼前に広がる光景で、状況を理解した。目の前に霧と人影の群れが存在している。何時の

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Bounty Dog 【清稜風月】216-218

 音楽は、奏でても聴いても記憶の書庫に置いている思い出を、埃を被った遠い過去の思い出も鮮やかに蘇らせてくれる

216

 日雨はウンウン唸り続けていた。人間に問われた”鍵”の名前が何なのかサッパリ分からない。謎々が解けない虫の亜人を監視しながら、コノハは虫から出された昼食(ひるげ)に一口も手を付けず、日雨の家の食卓で保護任務を実行していた。
 昼食は至極美味しそうな見た目で匂いも食欲を唆る良い香

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Bounty Dog 【清稜風月】215

215

 神社の手洗い場に置いている柄杓。土産屋に置いていた黒曜石14個と一合瓶の櫻國酒1本。銭湯の靴箱に入っていた突っ掛け半足。靴箱の鍵だった、厚手の木の板。
 柄杓の水受け部分に、酒と靴が入っている。背に上向きで差し込まれている柄杓は、装備者の身が動く度にカラカラと音を立てた。酒瓶は厚く、靴が幾ら側面に当たっても口を開けなければ中身が溢れる心配は無い。
 ポケットの両側に入れている石は”1個

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