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【一人暮らしの徒然】小さな達成感をコツコツ積み上げて

 花を買いに行ったのがその日の結衣子の唯一の外出だった。ガーベラとスイートピーを2本ずつ、帰って早速花瓶にいけて机に置く。
 あとは四月のイベントに出す小説の原稿をひたすら、ひたすらやる。タブレットを睨んでいても2時間ほど捗らず、原作を読み返したりTwitterを眺めたりして無為に時が過ぎた。昼を大きく回って、空腹を覚える。400字ほどしか進んでいない原稿に後ろ髪引かれつつ、台所に立った。
 ほうれん草と春菊があるのでどちらも茹でる。ほうれん草はそのまま豚こまとオイスターソースで炒め、今日明日のおかずにする。春菊はざっくり刻んで保存容器に入れて冷蔵庫へ。下拵えが済んだ葉物は何かと使いやすい。
 にんじんとじゃがいもとウインナーが余っているので、まとめておでんにすることにした。コトコト煮込む間に昼食を済ませて、もう一度タブレットを開く。
 ひょんなことから頭の中でエピソードが繋がり、着想としてまとまる。おお、いいぞいぞ。午前中は切れ切れだったタイピング音が、踊るようなリズムで続いていく。乗ってくると楽しくなって、台所の火を見に中座するのもちょっとした気分転換に思えてくる。大根にもじゃがいもにもすっと箸が通る。おでんが煮えた。よしよし、と火を止める。
 カフェオレを入れてもう一度机に座ると、ふと甘い香りに気づく。午前中に飾ったスイートピーだ。調子づいてきた執筆を更に後押しされたような快い気分になって、キーボードを打ち続ける。
 夕方には3000字を超えた。達成感と共にふと見やった窓の外はもう薄暗く、それを区切りに執筆を切り上げた。洗濯物を取り込んでカーテンを閉める。原稿中に作ったおかずで早めの夕食を取った。
 残り少ない休日も、やるべきことを終わらせていると満ち足りた気持ちで過ごせる。のんびりと夜を過ごした。

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