【一人暮らしの徒然】震度5強覚え書き

 間髪入れず二度目の緊急地震速報。縦揺れ。横揺れ。体感では、東日本大震災の時より揺れが激しい。物々しい警告音をがなりたてたスマートフォンを握りしめていると、まだぐらぐらと揺れている内に母からの着信があった。咄嗟にスワイプして応答する。大丈夫? と盛んに言い合う。震度6だって、津波警報だって、と矢継ぎ早に。
 気をつけて、と短い通話を切る。布団から起き上がって電気をつけると、オーブンレンジがレンジ台から傾いて今にも落ちそうなのが見えた。慌てて駆け寄り位置を直すと、次には昨日洗って伏せておいた食器が床に落ちているのが見えた。幸い、割れてはいない。拾って収納棚に戻す。
 玄関の電気をつけると、開け放された和室に立てかけてあった物干しや掃除機が倒れていて、咄嗟にそちらへ向かって踏み出すとびちゃりと水を踏んだ。トイレの前。扉を開けると、タンクから溢れた水で床が濡れていた。タオルを持ち出して、黙々と拭く。物干しと掃除機も立てかけ直した。玄関から非常時持ち出しリュックと防寒着を持ち出して、枕元に並べて置いた。複数の知人から安否確認のメッセージが来ていて、返信する。いずれの文面も、引き続き気をつけよう、と締め括った。
 思い当たって、冷蔵庫を開ける。正面のものがサイドポケットに、サイドポケットのものが正面になだれていた。作り置きのおかずの皿がひっくり返っている。直す。拭く。一通りやることがなくなって、電気を消して布団に戻った。
 暗闇の中スマートフォンを取ると、SNSのタイムラインには洪水のように呟きが溢れ、注意喚起でいっぱいだった。様々に不穏な可能性が頭をよぎるが、あえてシャットダウンする。微弱な余震を時々感じた気もするが、日付の変わる頃には寝落ちたらしい。夜中に同僚と家族からの着信があったことには翌朝起きてから気づいた。電気をつける。水道を出す。支障ない、今のところは。津波警報は解除されていた。
 お弁当を用意する他はさすがにいつものモーニングルーティンはこなせず、今後の余震での断水の可能性も考え、化粧はせず日焼け止めと眉だけ描いた。拭き取るだけのクレンジングシートがあるといいんだな、こういう時は。そんなことを考えながら玄関を出る。
 11年前の3月11日、長い長い揺れの直後に舞うような雪が降った。それだけが頭にこびりついている。その後のことはいくらセンチメンタルに振り返っても詮ないことで、ただただ備えながら日々を過ごすしかない。もう一通、姉から安否確認のメッセージが入った。短く返信し、しばらく気をつけようね、と締めくくった。

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