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どうしても誰かの淹れたコーヒーが飲みたい時がある。

ぱちぱちとした音を鳴らす雨に起こされ、どんよりとした空に引きずられるようにベッドから這い出る。
なんだか締りのない日曜日の朝。
8時からのモーニングを食べに行くと決めていたのに、時計に目をやるとすでに8時半。
ショックで目は覚めたけれど、昨日の夜更かしが私の頭をぼんやりさせていた。


ただ今日は、どうしても誰かの淹れてくれたコーヒーを飲みながらモーニングを食べたかった。
今週は自分でも実感できるほど心身ともに疲弊してしまっていて、家ではないどこかでほっとする時間を作りたかった。


体の疲れが抜けないまま急いで身支度をし、20分歩いて9時半過ぎに到着するも、モーニングは売り切れ、席も満席。絶望。
普段であればここで諦めて、大人しく家でお店のドリップバッグのコーヒーを淹れていただろう。
が、今日のわたしは一味ちがう。すぐに近くのカフェをGooglemap先生で検索。家から近いがゆえに訪れたことがなかったお店に決め、来た道をずんずん戻る。



カランカランーーー

入店し、席が空いていることにほっとする私。
窓際のカウンターに着席してメニューを眺める。
すでにちょっと満足してしまっている私がいた。

600円のモーニングセットもあったが、看板メニューのフレンチトーストに心惹かれた。1200円。
この際値段なんてどうでもいい、最優先すべきは私の心の満足度である。
結局フレンチトーストとカフェオレのセットを注文した。

オーダーを終え待っていると、先に空のカップだけやってきた。???となっている私に、店員さんが「飛びますのでご注意ください。」と警告する。すると、目の前でカフェオレパフォーマンスが始まった。店員さんは注ぎ口から飛び出してくるコーヒーとミルクを空中で合流させ、泡を立てながら勢いよくカップの中へ注いでいった。
思いがけないパフォーマンスににっこにこの私。
後を追うように、ホイップクリームが乗った可愛らしいフレンチトーストが登場した。


「それではごゆっくりどうぞ。」



待ちに待ったモーニング。

まずは泡のたったカフェオレから。
コーヒーとミルクが5:5の割合のカフェオレは苦味がなく、砂糖を入れているかのような優しい甘さだった。

山型の食パンで作られたフレンチトーストの上にはホイップクリームとベリーが乗せられていた。薄藍の食器に盛り付けられていて、色のコントラストがレトロで可愛い。胸が高鳴った。



フレンチトーストを頬張って、カフェオレを飲む。その合間に持ってきた本を読み進める。
これこれ、この時間が欲しかったんだ。
自分ではない誰かが淹れてくれたコーヒーでモーニングが食べたかった。自分自信を生活から切り離して、贅沢をしたかった。
もちろんいつも通り自分の家で自分で淹れるのもいい。丁寧な生活をしていると実感できるし、満足感を得ることができる。


でも今日は違った。
心のどこかで不安だったのだ。
職場では表面上ニコニコしていたけれど、来月から仕事内容が変わると伝えられ、重圧で押しつぶされそうだった。前任たちはみんな経験豊富なベテランたちな上に、全員異動してしまう。
だから自分を特別扱いしてあげたかった。いつもと違うコーヒーが飲みたかった。重い身体を持ち上げて歩いた道を戻ることになったとしても、誰かが淹れてくれたコーヒーが飲みたかったんだ。




そういえばメニューに「目の前で注ぐポットサービスで」と書いてあった。あのパフォーマンスはポットサービスというんだ。完全に見落としていた。
何かに心奪われているときは別の何かを見落としてしまうものだ。
だから、時には立ち止まって心の声を聞こう。
自分が何を欲しているのか、何から解放されたいのか。時に休息をとり、思考を正しい場所へ戻そう。


望まぬ物事に心囚われ、大切なものを見落としてしまわないように。



さて、また次回。
ほっと一息つく時間を一緒に共有しましょう。

Fika

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