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【連載】第9回 小西浩文さん 『困難を正面から乗り越えていけばいくほど人間は強くなる』


大山峻護のポジティブ対談
コロナ禍を乗り越えるためのメッセージ

第8回 小西浩文さん
『困難を正面から乗り越えていけばいくほど
人間は強くなる』


この対談は『ビジネスエリートがやっているファイトネス』の著者・大山峻護が各界で元気に輝きを放ち活躍しているこれはと思う人達をゲストに迎え、コロナ禍の今だからこそ必要なポジティブメソッドをみなさんにお届けするもの。第9回は8000メートル級の山を無酸素で6座登った世界的登山家の小西浩文さん。明るさを生命線とし、目標設定を誤らず、困難を乗り越える、そんなお話です。

■心は頭の上にある

大山(峻護) 小西んさんと初めてお会いした時、とにかくオーラがすごかった。お話していると汗びっちょりになるぐらい。今は丸くなりましたけど、当時は世界最高峰14座を無酸素で登頂しようというぐらい、生きるか死ぬかのチャレンジをしていた人なので、とにかくとんがっていましたよね。

小西(浩文) そうですか(笑)

大山 でも、逆境を乗り越える力というか、小西さんの乗り越えた逆境はとにかくスゴい。そのどれか一つを経験してみるだけでも、普通の人は人生が無茶苦茶になると思うんですが、それをいくつも乗り越えながらもめちゃくちゃ前向きに生きているのが小西さんなんです。そのマインドをみなさんに知っていただきたくて今回お話が聞けたらと思っています。よろしくお願いします。

小西 そんな偉そうものじゃないですけど。よろしくお願いします。

大山 小西さんは生きるか死ぬかを乗り越えてき人。8000mの山を命かけて6座登って、阪神淡路大震災では宝塚の実家が倒壊、さらにこれまで4回がんの手術もした。それをいつも前向きなメンタルで全部乗り越えているのには感心させられます。

小西 あとあれね。山から下り家に帰ってみたら、奥さんと子どもがいなくて、あるのは布団と冷蔵庫だけだったというね(笑)

大山 笑い話じゃないですよね。どれか一つあっただけでも、スゴい大事件なのにそれをすべて乗り越えるメンタルのお話を聞きたいんですが、小西さんはとにかく明るいですよね。その明るさに何か意味があるのかなあ?

小西 そうですかね。でも、生きるか死ぬかをやっていると最後の最後は明るさが生命線なんですよ。明るさだけ。脳が暗くなったらおしまい。逆に言うと、暗くなっときは厳しいですね。脳が、というか心と言ってもいいですが、そこが暗くなったらダメなんです。

大山 それは、どういう状態なんですか?

小西 脳っていうのは頭にあるじゃないですか。そして、心は脳の子どもというふうに私は定義しているんですが、心は脳の上あたりに発生するんですね。でも心をそこ(脳の上あたり)に置いておくと悪さをするんですよね。

大山 悪さですか?

小西 そう、悪さ。例えば「逆上する」なんていいますが、字にしたら「逆」に「上」ですよね。では何が逆に上に上がってくるのか? それは「心」なんです。
では反対の意味の「落ち着く」はどういうことか? 
これは心を臍下(せいか)丹田(へその下三寸あたり)に落としていく。落としていって着いたのが底ですよという話なんです。

でも、心というものはたいていの場合、頭の上あたりにある。よくオーバーシンキングなんて言われますが、頭の上にあると動きすぎる、つまり考えすぎてしまうんです。
それによって、人間は自滅するんですね。例えば、鬱なんていうものはその典型なんです。

大山 山とかで危険な状態があるじゃないですが、猛吹雪になるとか。とくに小西さんの場合は、ヒマラヤ登山などはシェルパと2人のことが多い。普通の人ならいろいろ考えてしまいパニックになりそうなイメージですが、小西さんはならないんですか?

小西 それは、「えっ!」と思うことはありますけど、パニックになることはありませんね。

大山 そうならない秘訣とかあるんですか? 絶体絶命のピンチを切り抜ける方法といいますか……。

小西 私の場合はどうやったら生還できるかしか考えていませんね。

大山 ダメだと思うこともなく?

小西 ダメだというのはまずいです。絶対に口に出して言ってはダメ。人間というのは「ダメだ」となると何もかにもダメになるんです。
ヨーロッパにアイガーという富士山ぐらいの山があって、その山にアイガー北壁と言われる1500mぐらいの垂直な岸壁があります。これはヨーロッパで一番難しい岸壁と言われるものですが、そこを初登攀しよう(初めて登ろう)としたドイツクライマーが、途中で失敗して岩に宙釣り状態になってしまったんです。

実はアイガーという山には岩盤をくりぬいた鉄道のトンネルがとおっていて、そのトンネルの窓から救助しようとトライしたんですが、どうしてもロープが届かなかったんです。当然自分で脱出することも不可能な状態で、そのクライマーが一言「ダメだ」と言ったんです。その瞬間、クライマーは体が反った感じで逆くの字になって死んでしまいました。
結局、彼はダメだといった瞬間に死んでしまった。彼の「ダメだ」という絶望感が彼を殺したんですね。これは典型的な例です。
なので、「ダメ」というのは絶対に口にしてはいけないんです。
極端なことを言えば「死んでも言ってはダメ」。

大山 僕もネガティブな思い込みでリングに上がったときは、当然ですが良い結果は得られなかったですね。
でもそれがわかったのは現役を引退してからでした。イメージングがいかに大事かというか。

■登ることより帰る事が最大の目標

大山 先ほどヒマラヤ登山の話をししたが、シェルパと2人で登るからこそなのか、小西さんは人を見る目もとにかくスゴいんですよね。

小西 人は性格は95%ぐらい顔に出でますね。私は「顔は人生の看板だ」といっているんですが、人を判断するには顔しかありません。
何を見るかというと、一番は「危険性があるかないか」。次に「信頼できるかどうか」、同時に「好感が持てるかどうか」。大体これに生き方が出ます。

大山 自分の状態を知るときも顔を見ればわかるといったことはあるんですか?

小西 それはあります。何を見るかというと額です。
例えば、脳が明るいと額につやが出ます。逆に額につやがない時、曇っている時は、本人は正確な判断ができると思っていても脳が大体混線、コンフューズしているんです。そんな時は判断を失敗してしまいます。

大山 今なんか特にコロナとか、お金とか、仕事とかいろんなことで悩むというか、脳が混戦している人も多いと思うんですが、そんな人はどうしたらいいんでしょう? 

小西 コロナはいわば人生の困難ですよね。人生の困難として、生老病死、愛別離苦、四苦八苦、とかあるわけですが、コロナも同じです。ただ人はこれをなんとしても乗り越えなければいけない。としたら頭をやわらかくしていかなければいけないわけです。根性で乗り切ろうとしたり、何かに固執したり、執着したりしてはいけないんですよね。

大山 なるほど、それを聞いて思い出しましたが、前に小西さんは豪傑な人、無敵な人は大体死ぬって話をしてくれました。その時に大事になるのが目標設定だと言っていましたね。

小西 そうですね。例えばあと30分でエベレストの頂上だというとき、往復で1時間、でも帰りは吹雪になりそうで、そうなると帰ってこられない。こういう時に「俺は帰ってこられなくてもいい」「死んでもいいから突っ込むんだ」といって、実際にアタックしてしまう人はいるんです。それで凍傷になり、指や腕を失いながらも生還して「豪快ですね」「無敵ですね」と言われる。
でも、そんな人は長生きできません。なぜなら、その時のアタックした成功体験が脳に残ってしまい、また翌年もそのまた翌年も8000メートル級の山に登り、また突っ込んでしまう。これをやった人間は10年も長生きできないか、動けなくなるほどの重傷を大抵負ってしまいます。

大山 引き返す勇気。「帰る事」が最大の目標なんだから、一回引き返そう……。僕なんか突っ込んでしまうタイプなので、この考え方は響きます。

小西 そうなんですよ。目標の設定の仕方が大事。富士山に登る人に「どこがゴールですか」と聞くと、みなさん「頂上です」というんですね。
でも、頂上というのはあくまで通過点でしかないんです。登ったら降りるのがあたりまえですから。じゃあ、実際にどこがゴールかというとやっぱり「家」なんです。
例えば、富士山に登って、五合目から車で帰えるとします。でも途中の中央自動車道で疲れから居眠りをして、事故を起こして死んでしまいました。これも「失敗」ですよね。
結局、登山の場合、自分の家に五体満足で帰ってくるのがゴール、第一の目標なんですよ。特に命のかかわるスポーツなどはそうです。
格闘技でも「あしたのジョー」のように灰になってしまってはいけないんです。大山さんも毎試合、毎試合ボロボロになって戦っていましたが、あれは危うかった。

大山 確かに、そうですね。小西さんの話を聞いていると引き返すことが「ネガティブなこと」じゃないんですよね。結果、ポジティブになことだから……。気を付けたいのは、「ポジティブ」を履き違えてしまうことですよね。「勇気」と「無謀」は全くの別物ですから。

小西 そうですね。あとはコロナ禍でもそうですが、「最悪な状況はどんな状況ですか?」とうことをシミュレーションしなければいけないですね。
山だったら「死ぬ」ということが最悪極まりないことですから、これを絶対避けなければいけない。そこからの組み立てになってくるんです。

大山 僕が現役で一番足りなかったことかもしれないですね。いいイメージしかしていなかったですもん。で、毎試合ボロボロになって……(笑)

小西 ボジティブは絶対に必要なんだけれど、リアリストじゃなければいけないよね。
ましてや、ほかの人の命もかかっているとしたら、極めて慎重にならなければいけない。
もちろん頂上が取れるときは絶対に取りにいかなければいけない。でも、できるムリとできにないムリはリアリストになって見極めなければいけないんですよ。それがプロかどうかの違いです。

■コロナを乗り越えたとき、人類は倍も強くなる

大山 小西さんはガンを4回も克服されていますが、怖くなかったんですか?

小西 3年前に25年ぶりに咽頭ガンにかかったときは動揺しました。でも、これは検査結果が出てオペをやってもらうドクターのいる病院に向かう前日の話なんですが、尊敬する先輩と食事会をする機会があったんです。
その席で、私が「実はガンになってしまったんですよ」と言うと、そこに元警視庁の捜査一課長で宮本武蔵の17代目に当たる先輩がいたんですが、その方が「いやー、小西さん。修行ですね」と笑いながら言うんですよ。
内心「笑っている場合じゃなないだろ」と思ったんですが、その方が言うには「小西さんは今でも一廉の人物かとは思いますが、これからもう一段、二段上に行くために必要な修行なんですよ」と。

聞いてみると一廉(ひとかど)の人物になる修行には3つあり、一つは生きるか死ぬかの「大病」。もう一つは「失職」。例えば会社をクビになりましたとか経営者が会社をつぶして駅前のコンビニでアルバイトしているなんて言うのも失職ですよね。
そしてもう一つが「投獄」。これは強盗や殺人とかいうものではなく、例えば政治がらみで西郷隆盛が沖永良部島に島流しになるとか、ネルソン・マンデラが27年間投獄されるみたいなことですね。

この三つのうちどれかをやらないと一廉の人物(男)にはなれないよと。それからいうと「小西さんはまだ足りない。だから修行ですよ、修行」なんてこと言うんですね。

大山 すごい教えですね。

小西 そうですね。それを聞いて一気に地に足がつきました。なるほどと。それがあるかから死ぬわけがないなと思ったんです。その話を聞いたのが病院に行く前日だったというのも何かのシグナルかと。
これまで私は35年間の登山生活でたくさんの亡くなった方たちを見てきましたが、これは間違いなく死なない方向に、助かる方向に動いているシグナルなんだと確信したんです。

大山 手術が終わってお見舞いに行ったときは、どんな状況になっているのかな?とドキドキしながらいったら、短パンで出てきて、無茶苦茶元気なのには思わず笑ってしまいました。
こんな状況でもこんな明るい状況にする小西さんがスゴいなと。

小西 言ってみれば確信力ですね。人生の困難を正面から乗り越えていけばいくほど人間は強くなります。コロナという大きな困難を乗り越えたとき、人類は倍も強くなりますよ。もちろん個人も同じです。それは間違いないですよ。修行です。

大山 いやー、今回も深い話が聞けました。これを乗り越えて日本が元気になってほしいですね。

小西 地球が元気になりますよ!

大山 そうですね。ありがとうございます!

小西

1962年、石川県に生まれる。登山家。15歳で登山を始め、1982年、20歳で中国の8000m峰・シシャパンマに無酸素登頂。1997年に日本人最多となる「8000m峰6座無酸素登頂」を記録。現在、世界8000m峰全14座無酸素登頂を目指して活躍中。映画「植村直己物語」に出演。映画「ミッドナイトイーグル」では山岳アドバイザーを努める。

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大山峻護さんの書籍はこちら↓↓↓


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