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『ファイトネス』「はじめに」公開中!

はじめに 心と体は連動している

強い者よりも変化できる者

忙しい毎日を過ごすなかで、結果が出なくて落ち込んでしまったり、職場の対人関係に悩まされたりといったストレスを抱えている方は多いのではないでしょうか?

2018年に行われた労働安全衛生調査(実態調査)によれば、いまの労働環境において強いストレスを感じている方の割合は58.0%。半分以上のビジネスパーソンがなんらかのストレスを抱えていると言われています。

さらに、2020年の新型コロナウィルスの大流行により、わたしたちの生活様式は劇的に変わりました。職場ではテレワークが急速に進み、人との距離に配慮しながらの生活が日常化するなど、目に見えないウィルスの脅威によって、社会がここまで変化してしまったことには驚かされるばかりです。

みなさんはこの変化をどのように感じたでしょうか?

もしかしたら、困難を前に「もうダメだ」と、ネガティブな思考に陥ってしまって、さらにストレスを溜め込んでしまった方もいるかもしれません。
しかし、わたしはそうは思いませんでした。むしろ「いまこそチャンスだ」と、積極的にオンラインツールを取り入れてイベントを開催してみたり、いまもこうして本を書くことにチャレンジしてみたりと、新しい取り組みを行っています。

ただ、わたしがこのように前向きに考えて行動することの大切さを強く意識するようになったのは、実は現役を引退してからでした。

総合格闘家だったわたしは、現役時代、結果が出ない日々に強いストレスを感じていました。ヴァンダレイ・シウバ選手、ダン・ヘンダーソン選手、ミルコ・クロコップ選手ら、格闘技の世界で頂点に立つ強豪たちと対戦しましたが、その高い壁に何度も跳ね返され、その度に、気持ちを入れ替えて次の試合へと走り出していました。

現役当時のわたしの戦績は、33戦14勝19敗。これを見てもわかる通り、決してキラキラした現役時代を送ってきたわけではありません。ただ、負けが多かった分、立ち上がった回数も人よりも少し多かったと言えるでしょう。

もちろん、負けたときは大きく落ち込みます。塞ぎ込んでしまい、誰とも話をしたくないと思ったことは1度や2度ではありませんでした。
しかし、いつまでもそのようにはしていられません。次の戦いに向け、再び闘志を燃やし、トレーニングを続ける必要があるからです。
そんな経験を繰り返していくうちに身につけることができたのが、ネガティブになってしまった自分を、毎回ポジティブな思考に持っていく術(すべ)でした。

この本では、「ファイトネス」という運動プログラムをもとにしながら、心と体を元気にする術、前向きに落ち込むことなく、最高のパフォーマンスを発揮する術をご紹介していきます。

わたしは2015年より、格闘技とフィットネスを融合したトレーニングプログラム「ファイトネス」を企業やビジネスパーソンの方々に向けて提供してきました。これまでファイトネスを導入していただいた企業は100社を超えています。

なぜこれだけ多くの企業でファイトネスが必要とされているのか。
わたしが現場でビジネスパーソンの方々と触れ合っているうちに気がついたのは、ポジィブな思考を持ちながら行動することができる人がいる一方で、ネガティブな方向に進んでいってしまう人も数多くいるということでした。

前者は、アスリートのメンタリティと共通している部分が非常に多いです。この先も新型コロナウィルスの流行のような、誰も予測できない事態は必ず訪れることでしょう。そのような事態に直面しても、物事を前向きにとらえることができるアスリートのような思考法がとても大切になるのではないかと思います。

進化論を唱えたダーウィンはこう言いました。
「最も強い者が生き残るのではなく、最も賢い者が生き延びるのでもない。唯一生き残ることができるのは、変化できる者である」 と。
もし、あなたがいま、ネガティブな思考の持ち主であっても安心してください。人間は必ず変わることができます。

心を折るビジネスエリートたち

最近ではテレワーク一つをとっても、テクノロジーといった優れた技術面が注目されていますが、テクノロジーが進化してもそれを使うのは人間です。
壁や逆境を乗り越えることができる心と体がなければ、どんなに優れた技術も使いこなすことはできません。大切なのは、人間の持っている生命力をいかに発動させることができるかだとわたしは思っています。

その証拠にわたしの周りにいる素晴らしい経営者の方々は、とても前向きな方が多いです。その方たちに共通しているのは、「この試練をどうやったら乗り越えられるか」という、アスリートと同じような思考法を持ち合わせていることです。

そして、驚くことにその思考は見た目にもあらわれます。顔つきや表情は晴れやかで、目はキラキラし、体にやる気が満ち溢れています。あなたの周りにもきっとそのような方がいると思うので、ぜひ探してみてください。そしてそのような人を見れば、心と体が連動していることに気づけるはずです。

とはいえ、電車に乗るビジネスパーソンを見ていると、体が丸まり、視線が落ち、表情が暗い、という身体的な特徴があることにも気づかされます。
その原因の一つに、現代社会の必需品であるパソコンやスマートフォンの利用があるとわたしは思います。

これらを長時間使用していると、自然と頭が落ち、肩が内側に丸まり、腰も曲がって猫背になります。その結果、呼吸が浅くなったり、血液の循環が悪くなったりして、結果的に心の状態までも悪くしてしまっている。そう考えると、いまの世の中にうつ症状に悩む人が多くなっているのも、妙に納得できるのではないでしょうか。

わたしはこれまでも、活躍を期待されているビジネスエリートと呼ばれる人たちが心を折ってしまうケースを何度も見てきました。
彼らのように忙しくて時間のない人ほど、パソコンやスマートフォンを長時間活用しています。それらは現代社会では手放すことができない重要なツールですが、一方でわたしたちの心と体に大きな影響を与えているのも事実です。

いくら忙しいからといって、毎日スマートフォンをいじりながら電車に乗って職場に行っているとどうなるでしょうか。朝から姿勢を崩して通勤し、職場でずっとパソコンの前で作業をし、帰りの電車でもスマートフォンをいじる。これでは心と体は悪循環をエンドレスに繰り返し続けてしまいますよね。

心と体は連動している。これを最も端的に表しているのが、坐禅です。
坐禅は姿勢を正しくしてあぐらを組み、呼吸を意識することで、心を整えることができると言われています。

詳しいことは続く本編でお話ししますが、脳内には、「セロトニン」という神経伝達物質が存在していて、このセロトニンが不足すると、メンタルに不調をきたすと言われています。実は坐禅をして正しく腹式呼吸を行うことにより、脳内のセロトニン神経が活性化して「気分がスッキリする」などの効果が得られるということが様々な研究によりわかっているのです。
つまり、坐禅は、体から入って心を整えているわけです。

わたしは現役時代から、体が資本の仕事をしてきたので、姿勢をはじめ、自身のメンタルコントロールや身体コンディションのきめ細かい部分まで気を使って生活を送ってきました。そのため、自分の心身の状態だけではなく、他人の心身の状態をも客観的に見るクセがあります。

先にも説明したように、ファイトネスでの企業研修や電車の中でなど、様々な場面でビジネスパーソンの方々と接する機会は数多くあります。特にファイトネスで企業を訪問する際は、体も心も悪循環に陥っている人たちと出会うことがとても多いです。
現代の日本社会では常にストレスと隣り合わせの状況ですが、だからこそ、まずは知識として「心と体は連動している」ことを知って欲しいと思います。

心身一如

仏教用語に「心身一如(しんじんいちにょ)」という言葉があります。これは心と体が一体となって物事に集中している様子をあらわしたものです。

このことに則って「座禅」説明すると、姿勢を正して座った状態で精神統一を行う「座禅」は、「座る」という行動を先に取ることで心を整えていく行為。つまり、心と体は連動しているので、体を良い状態にすると自然と心も整っていくというわけです。

人は目の前の相手に対して警戒心があると、無意識に腕を組んだり足を組んだりしてしまいます。これは心に抱く恐怖心が、反応として体にあらわれてしまうからです。
また、何かに対して不安があるときや、気分が暗く落ち込んでいるときは、顔が下を向きます。心がネガティブな状態にあると、体が無意識に反応を起こし、顔の向きや表情にもネガティブな状態があらわれてしまうのです。

もしもあなたの目の前にいる取引先の人が、手足を組んで斜に構えた態度を取っていたらどう感じるでしょうか。
「怒っているのかな」「警戒しているのかな」「自分とは仕事をしたくないのかな」と、ネガティブな印象を持ってしまいませんか? 
このような状態では、仕事もうまくいくはずがありません。だからこそ、自分の状態を意識的に変えてあげる必要があります。

商談相手とのコミュニケーションのときには、まずは自らの体を開き、心も開いてあげる。すると、相手とも良いコミュニケーションを取ることができ、良い結果が生まれるはずです。

実はこの教えを、現役の頃から受けていました。わたしが試合直前に、セコンドによく言われていたのが、「大山、視線を上げろ」という言葉でした。
試合前のわたしは、恐怖や不安から、体を丸め視線を下に落としていることが多かったのです。

「目線が上がると心がオンになる、目線が下がると心がオフになる。だから大山、視線は常に上げておけ」 ということを、何度も言われました。
毎回のようにその言葉を投げかけてくれていたのは、わたしの中学時代の同級生で、強い柔道家だった故・小斎武志です。

未熟だった当時のわたしは、この言葉の意味をあまり理解できていませんでしたが、ようやくその意味を理解できるようになりました。
だから、わたしが誰かのセコンドについたときには、必ず選手にこの言葉を伝えるようにしています。

心と体、どっちが先か?

これまで「心と体は連動している」ということについてお話ししてきました。では、ここで質問です。「心と体」。みなさんはどちらが先だと思いますか?

もう言うまでもありませんね。座禅の話もそうですし、目線の話もそう。「体が先」なのです。これにはいろんな意見があるかもしれませんが、わたしはそう信じています。

不安や恐怖のような感情は、わたしたちの心に自然と発生してくるもので、それをコントロールすることはできません。「緊張するな!」と言われても、緊張は和らぎませんよね? だからこそ、体を先に変えるのです。

座禅も、わたしが現役時代に何度も声をかけられた「視線を上げろ」というアドバイスも、最初に、体の状態をポジティブにし、心の状態もポジティブな方向に向かわせるためのものなのです。

つまり、自分の態度や姿勢、表情、言動、振る舞いを変えていくことで、心の状態はコントロールできるということ。
この本ではその術をわたしの経験や、これまで得た知識をフルに活用してお伝えさせていただきたいと思っています。

この本を読み終えたとき、みなさんの顔はきっと上を向き、笑顔になっていることでしょう。そして、どんな困難に直面しても、前を向いて、最高のパフォーマンスを発揮しながら、自分の信じる道を歩いていくことができるようになっているはずです。
それでは前置きが長くなってしまいましたが、さっそく体と心を一気に整える「ファイトネス」を一緒に始めていきましょう!

本文へ続く……。


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