見出し画像

虎に翼 最終週へ

半年間想定外な知識と展開で楽しませてくれた虎に翼が終わろうとしている。
朝ドラのお決まりであれば、主人公が仕事を成し遂げてその人生を振り返りつつ大団円を迎えるという通例だけれども、虎翼はそれさえも想定外に、毎日誰かが考え込んだり、沈黙で続いている。
一見沈んでいるようにも見えるけれど、今回の法律というテーマの上で、時間が経たなければ、わからないこと、解決しないことを教えてくれる。

昭和25年の尊属殺人の重罰規定が違憲がどうか?の裁判で穂高氏が最後まで違憲であると譲らなかった正義。今こそ過去の判例を変更する時だと航一は桂場にくってかかる。

桂場は「机上の理想論」という言葉を使ってそれを跳ね返す。
「机上の理想論」とは航一がかつて総力戦研究所で行った机上演習と重なる。
その罪から逃れられずにいた航一だが、今回は違った

「反発は来るかもしれないでもたとえどんな結果になろうとも判決文は残る。ただ何もせず、人権蹂躙から目を逸らすことの何が司法の独立ですか!」

過去に間違っていると言えなかったことの罪を背負っていた航一は、ついに自分の正義を貫く
(鼻血出ちゃったけど)

桂場だって、同じ時代に同じものを見てきた。でもおそらく、自分のポジションが上がっていくにつれ、幾つもの選択を迫られていくうちに、本来の志とはちがう方向へ来てしまったのではないだろうか?

その桂場に寅子は遠慮なく意見する

桂場さんは若き判事たちに取り返しのつかない大きな傷を残しました。きっと一生許されない。私は彼らにも許さず、恨む権利があると思う。私自身桂場さんに怒り、失望して傷つきもしました。私が邪魔で、面倒で、距離を起きたくても司法の独立のために、共に最後まで戦い続けるしかないんですよ

この寅子の言葉で穂高氏が亡くなった時のシーンを思い出す

穂高氏を送ったあと、多岐川、工藤、寅子と3人でたけもとで飲む。桂場は最後にクダを巻きながら

「周りになんと言われようとこの俺が描く理想のために、虎視眈々と突き進むしかないと」
言い始める

寅子が「あの桂場さんの理想とは?」と聞くと

「決まっている、司法の独立を守ることだ、そして二度と、権力好きのジジイどもに好き勝手にさせないこと。法の秩序で守られた、平等な社会を守る つまり穂高イズムだろ!
最高裁判決における、先生の反対意見読んだろ!」

彼はそう言っていたはずだった。それなのにいつの間にか軌道を外れていた桂場に

何を君は、ガキのような青臭いことを、、、

と言われ、

わかります?実はわたし、一周回って、心が折れる前の、いえ、法律を知った若い頃の自分に戻ったようなんです
いや、でも、どの私も私やっぱり全部含めて、ずっと私なのか。
兎にも角にも、さすが、桂場さんです。

初心にかえろう。初めて大学で出会ったあのひのスターラインに

そして桂場は気づいた

昭和47年4月 尊属殺人に大法廷が開かれることになり、翌年、尊属殺重罰規定違憲判決
最高裁判所が法律を「違憲」と判断した最初の判例となる。
穂高氏の無念の日から、22年経った。

その日の家で語り合う寅子と航一

長官の膝の上で目が覚めた時から、心が軽くなった気がします
一区切りついたような  あの、戦争の、、でしょうか
いや、でも、そう思っていいのかも正直わかりません

じゃあ、わかる日が来るまで、少しずつ、少しずつ、心を軽くしていきましょうよ

航一が背負ってきた罪の意識はここへきてやっと動き出す。

そして美佐江の娘の出現で寅子は救えなかった命を知る

一周回って今法律を学び始めた頃の自分に戻っているという寅子
人は生きていく上で目の前の問題を解決することばかり見ているうちに、いつの間にか自分の初心を忘れてしまう
9月に入ってからの虎翼は、初めて法律を知った女子学生の寅子が出会った人々が皆成長し、キャリアを積んで人の上に立つものとなった時、ここまできて気づくことを1枚1枚整理しているように思える。
時間が経たなければわからないこと。そして志を遂げるために必要な時間。
そこまで自分の信念は曲げずに貫けているのだろうか?
この誰にでも問いかけられる問題が「法律」に当てはめられると、どんなにか身近で、責任の重いことだろうと気付かされる。

そして今もなお被爆者の問題、夫婦別姓の問題は続いている。
寅子の生きた時代の前から、そして今に至っても社会の問題はずっと続く。では、解決できないことなのかといえばそうでもない。1人の人間がそんなに大きく世の中を変えられるわけではないけれど、一人一人が、正しいことに向かって、努力と反省を繰り返しながら、臆せず自分を信じて精一杯今を生きること。それが少しずつ世の中を変えているのだと思う。
その大切さを教えてくれるような気がする。

この記事が参加している募集

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?