56年前祖父の遺言

祖父のこと


伯母が第一子を生んだ昭和34年に、祖父が送った「遺書」というメッセージ
孫の誕生に「遺書」というタイトルで言葉を贈る祖父。時間の流れをしっかりと受け止める心の強さを感じます。
そして今読んでも、言葉の一つ一つが激しく突き刺さる。
祖父は脳梗塞で言葉が不自由になってからも、当時まだ幼児だった私に向かって
「あなたは、あなたの道を進みなさい」と強い眼差しで言いました、あの日の顔は心に焼き付いています。

「けっして後塵を拝して(地位権力のある人をうらやむ)はならぬ。時代とともに動くには、教養、訓練、健康が基礎です。」

「決して急ぎなさるな。ゆっくり足を地につけて毀誉褒貶(褒めたりけなしたりする様々な評判)を気にせず、悠々真実を観ながら進んで行って貫きたい。幾年経っても、また一生貫いてもかまわない。ぜひぜひ、真実をつかんでください」

祖父のメッセージほぼ全文

二十年後の陽子ちゃんへ
今、あなたは生まれて一年にも達しない。しかし、20年後の陽子ちゃんに当てて私は遺書を書きます。
私は慶応義塾に学び、福沢諭吉先生の独立自尊を体得した。先生は独立自尊をモットーとし、人間の平等性を強く主張した。人間平等と独立自尊は私の守り本尊となった。(中略)
独立自尊も狭く見ると自己主義になる。陽子の時代は日本だけでなく世界を中心とし、宇宙を懐にした独立自尊でなければならぬ。自覚せる自我の、時勢に適応した大我(我意我執を離れて自由自在であること)でなければならぬ
人間平等は文化が進むほど拡大する。独立自尊は個の確立のみならず、その裏側の他尊心も培わねばならぬ、陽子ちゃんよ活眼をひらいて時運に棹してください(棹を使って流れる)。
どの方面でも、けっして後塵を拝して(地位権力のある人をうらやむ)はならぬ。時代とともに動くには、教養、訓練、健康が基礎です。私はあなたに期待している。どうぞ、私の期待、希望を生かしてください。
決して急ぎなさるな。ゆっくり足を地につけて毀誉褒貶(褒めたりけなしたりする様々な評判)を気にせず、悠々真実を観ながら進んで行って貫きたい。幾年経っても、また一生貫いてもかまわない。ぜひぜひ、真実をつかんでください。真理はどの世界、どの分野にもあります。嫁にいこうが婿をとろうがそれはあなたのその時の心持ち、判断に任せますが、あなたの一生の仕事を終生やり通してください。幸福は生まれて来ます。あまり速成の幸福を追いなさるな。堅忍持久(じっと我慢してもちこたえる)、自信を持ってあたってもらいたい
赤ん坊の顔は神様のようで清浄だという。陽子ちゃんは今活動し躍進している神である。良き環境は良き人間の資格を与える温床である。適性なる職種を忠実に研究し、踏み外す事なきよう周到の配慮をせられんことを衷心(心の底)から希望する。ただそれを、カビをはやし腐らせてはいけない。生活に安住した職業に固定してはいけない。常に進取の気持ちを続けなければいけない。不合理の継続は一時順調に見えても終わりはちゃんと清算される。
陽子ちゃんの輝かしい誕生にあたって、私は歓喜すると同時に、かくのごとき期待を寄せるものであります。今後の、長い波乱の多い人生を強く生き抜くための方策を練って行かれよと望む。私は陽子ちゃんの成人を楽しみ。色々考えながら死ぬ。なんと私は幸せな者でしょう。
昭和34年 文化の日 

亡くなった人の事を忘れないで、とかお墓参りに行ってとか、故人をしのぶ気持ちはそれぞれ違うと思いますが、受け継ぐと言う本当の意味は、祖父のこの精神が無意識に私の中に生きていると言う事なのだと思います

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?