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『トマト文章』「ちくま800字文学賞」応募作品

 ある日、テレビをつけるとニュースでこんな事を言っていた。
「先日、都内で発見された文章について。政府は今日、廃棄を決定しました。調査に当たっていた研究者複数名が体調不良を訴えているためとしており……」

 不思議なことが起こるものだ。なぜ、研究者たちが体調不良を訴えただけで、文章その物を破棄しなくてはいけないのか。そう思っていると、テレビの画面が乱れた。画面が直るとそこには古本の様な物が映されており、カメラが中身を映し出そうとする。俺はテレビを消した。

 外に出ると、辺り一面にトマトが転がっていた。何かがおかしい。前を見るとスマホを眺めている男がいた。声をかけようとすると、男は何かを呟きながら倒れ込んだ。
「どうかしましたか!」
「トマト……」
「えっ?」

 そう言い残すと男の体が消えてトマトだけが地面にぽつんと残された。まさか、さっきのトマトは全部……
 慌てて俺は大通りに出た。車の群れが止まったままになっている。車の中を覗くと車内にはトマトだけが置かれている。トマトはやはり人なのだ。

 あてもなく道を進んでいると、謎の人々が列を成してこちらの方に歩いてくる。お互い立ち止まる。
「おめでとう」
「はっ?」
 どうやら彼らがこの騒動の黒幕の様だった。俺は後退りをする。
「なに、怖がることはない。我々もいずれはトマトになるのだ。トマトを崇めよ」

 彼らは一斉に手を挙げて「トマト」という言葉を連呼した。俺は逃げた。ところが、彼らは全速力で俺を追ってきた。
「なんで追いかけるんだ!」
「逃げたということは、我々に歯向かうということだ。お前もトマトになってもらうぞ!」
 訳がわからない。そう思っていると俺は両腕を彼らの手下に掴まれて動けなくなった。一団のリーダーが一冊の本を読み上げた。

「トマト。トマト。トマト。トマト。トマト。トマト……」

 ダメだ。体の調子が悪い。苦しい。トマトに支配される。ああ、ああ!!

 トマト!

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