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レスター第9週 サッカーによる高齢化社会&認知症への挑戦とカタールW杯へ履歴書を送付

今週はイングランドにおけるサッカー観戦の徹底した安全管理、サッカーを通じた高齢化社会と認知症対策への取り組み、カタールW杯の組織委員会による講義だけでなく、レスター・タイガース(ラグビー)のボランティア最終回でも熱い出会いに恵まれました。

イギリスの政府機関である「Sports Ground Safety Authority(スポーツ競技場安全機関、以下SGSA)」の講義では、1970〜80年代にスタジアムで発生した重大事故を現代にて再発させない対策が徹底されていることを学びました。とはいえドローンを使った爆破テロなど、新技術を使った危険行為が次々と生まれており対策に終わりはないとのこと。

上記リンクにて講義の詳細が英語ですが紹介されています(手前のチェック柄のシャツを着ているのは私です)。

英国プレミアリーグでは全席指定にしたことで暴力行為や差別発言をしている者を一般観戦者でも特定できるようになり、専用アプリを通じて試合主催者(ホームチーム)に通報できます。これによりスタジアム全体の安全だけでなく、通報者のプライバシーも保護できるようになりました。

そしてSGSAは世界中で安全なスポーツ観戦を実現するため、これらの取り組みを世界各国にてセミナーなどを開催して伝えています。とはいえイギリスほどの経済力やスポーツインフラを備えていない国々が大半であるため、いかにして事の重要性を理解してもらい、様々なトラブルを事前に想定して準備することの大切さを啓発しているそうです。

さて、イングランドでは近年、サッカー協会(The Football Association 通称"FA")だけでなくクラブチームも女子サッカーの普及にかなり注力しています。今回はFAの担当者がその取り組みを紹介してくださいました。

FAは女子サッカーにおける「競技人口とファン数の2倍化」と「W杯優勝」を目標とし、子供から大人まで全世代のプレー環境や競技レベル別の育成プログラムの整備に取り組んでいます。また、現役選手によるファンとの触れ合いも良し悪しは別として、極度にセレブ化してしまった男子選手たちとは異なり女子選手たちは実現しやすい状況にあるとのこと。

他にも今夏フランスで開催されたW杯に向けて英国セレブたちが代表メンバーを発表することでサッカーファン以外の注目も集めました。ちなみに選手たちにはこの動画が投稿された前日に選考結果を伝えたそうです。

とはいえ実はイングランドでは中学年代以降は学校体育(公立私立の違いについては未確認です)を男女別々に取り組んでおり、女性のサッカー未経験者が多いとのこと。プレーしたい10代の女性は自分でプレー環境を探す必要がある課題を解決するため、FAが普及活動に力を入れているようです。私は日本の中学(公立)・高校(公立)・大学(私立)の体育の授業では男女混同だったため、イングランドの状況には驚きました。

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続いてサッカーを通じて高齢化社会における社会的孤立や認知症の対策に取り組んでいる「Sporting Memories Network」という組織の講義では様々な思いが脳裏をよぎりました。

イギリスで自殺率が最も高いのは65歳以上の男性であり、孤独に悩まされることは1日15本の喫煙よりも大きな健康被害をもたらすそうです。そして認知症も高齢化社会では避けては通れない課題です。私の両親は幸いにも今は健康ではありますが、今後これらの状況に陥る可能性があることを思うと、他人事とは思えません。

これらの課題を解決するためには「楽しみを共有できる居場所」が必要であり、様々な解決策が考えられる中で、「Sporting Memories Network」ではイングランドで最も人気のあるサッカーを通じて「居場所」を提供しています。例えば1966年にイングランドがW杯を制した時の新聞記事を見ながら幼少時代の記憶を呼び覚まして脳を活性化させるだけでなく「楽しい思い出を共有できる人間関係」を構築することが人生に希望を与えるとのこと。

その思いに共感したロイター社が9万枚の写真を無償提供したり、チャンピオンシップ(2部リーグ)が今年12月の10試合においてスタジアム内にて無償で広告露出をする機会を提供することを表明しております。オーストラリアでも同様の取り組みが広まり、日本でも同様のことができないか考えていたら「レスターシティFCがこの取り組みに賛同し、協力してくれています」との衝撃の事実が。

スポーツクラブの社会的な存在意義が問われるのであれば、日本では歴史あるプロ野球界こそこの取り組みにドンピシャなのではと思いました。巨人のV9やON時代、阪神が日本一になった1985年などなど日本のプロ野球には他のリーグの追随を許さない圧倒的な「歴史」という強みがあります。そしてプロ野球だけでなく、高校野球を筆頭に、大学野球や社会人野球など多くの歴史が積み重なって実現している日本の野球人気なので、その人気が高齢化社会にも役立てれば最高ではないでしょうか。

そしてSporting Memories Networkを支えるボランティアの方々もスポーツファンの高齢者が多く、ボランティアスタッフの方々にも同様の居場所を提供しているとのこと。どうかこの取り組みが世界中に広まって欲しいと思いましたし、25か国以上から集うFIFAマスターの同級生たちと私たちがどのように貢献できるのかを検討しています。

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そして今週の目玉であった2022年カタールW杯の組織委員会による講義では予想以上に痛烈な質問が続出。それでも逃げることなく真摯に応対された姿勢には感銘を受けました。大量のオイルマネーを注ぎ込んでいることは一切否定せず、W杯を通じてカタールを「石油王国」から「スポーツと教育の先進国」に進化していることを世界に伝え、アラブ地域に貢献することを目標としているとのこと。

また、スタジアムの客席の一部を大会後にインフラ設備が必要な国々へ寄贈したり、スタジアムを学校やショッピングモールを含む複合型施設に進化させることなど、大会のレガシー(遺産)に関する説明を聞いていると「これまでにない新しいW杯だからこそ多くの国々から懐疑的に見られているのでは」との思いが募りました。

ちなみにカタールW杯のスタジアムについては以下ブログにて非常に丁寧に説明されているのでご参照ください。私は講義の前にこの記事に出会いたかったです!

そして国内リーグの観客動員が低迷している事案の改善策を問いました。なぜなら大会後にスタジアムを解体する予定ではあるものの、現時点での観客動員数を考慮すると座席数を6万人⇨3万人ではなく、2万人規模のスタジアムでも良いと思ったからです。

予想通り「少ない人口(250万人)やスポーツ観戦に向いていない気候などが理由で国内リーグの観客動員を改善することは難しい」との返答を受けたので「そこを他の課題解決と同じく、いかに資金力で解決するのかが知りたいのです」と重ねようとしたもののお互いヒートアップしてしまったので授業後にパブで個人的に質問しました。その答えは「国際大会や海外チームの招致によって国内リーグの関心も高まり観客動員は微増しているんだけど、こればかりは時間がかかるのよ」とのことでした。

とにかく正しいと信じることを継続するしかないと思いますし、先の世界中にスタジアムの安全管理について啓発しているSGSAがイギリス式を世界中に当てはめられないことと同じく、カタール独自の状況を改善するにはカタールについてまずは理解せねばと思いました。

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また、建築現場における労働環境の改善もW杯を招致できたからこそ改善に向けて舵を切ることができ、むしろ他の近隣諸国と比べてもカタールの労働環境はかなり良いとのこと。果たして自分の目で確認していないから安直な判断はできませんが、いかなる質問にも正面から向き合ってくださり感謝の気持ちでいっぱいです。

最後の質問では誰もが気になる採用状況について聞きました。3年後に迫ったW杯に向けて採用活動は積極的に行うそうなので、帰宅してから御礼メールに卒業後の就労希望と合わせて履歴書も送付しました。果たしてどうなるか分かりませんが、大学時代に某社がアルバイトを公募していなかったものの履歴書を送ったら採用してもらえた経験があったので迷わずGOしちゃいました。

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卒業研究のグループでは「スポーツ界における変革者(game changer)」について意見交換。内部告発、テクノロジードーピング、賭博、違法配信などなど、スポーツ界は今「倫理・道徳」に関する多くの課題に直面しています。果たしてこれらはスポーツ界に不利益をもたらすだけなのか、それともスポーツ界における大きな変革に寄与することになるのか。

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ということを担当教授といつものトルコ料理屋で引き続き議論しました。レスターでの日々も残り1か月、大きな試験も終えたので今は卒業研究のテーマ設定に向けて論文やニュース記事を読み漁っています。卒業研究ではグループ全員での得意分野から「落とし所」ではなく「最高到達点」を見つけ出そうと日々奔走しており、めちゃくちゃ楽しいです。

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週末には最終回となった古豪ラグビーチーム、レスター・タイガースのボランティアに参加。招待券などの受け渡しを主に担当させてもらったのですが、初観戦の子供がいると聞いては機転を利かせて応援フラッグをプレゼントするベテランスタッフの姿勢に感動しました。

そして英国のラグビー場ではサッカーとは異なり、ホームチームとアウェーチームのファンが一緒に観戦していることを「安全なスタジアムの象徴」となっているものの、問題が起きていないわけではないとのこと。レスター・タイガースも差別的な発言を繰り返していた泥酔者に対して10年間のスタジアム出入り禁止処分を課し、ブラックリストもチーム内で共有していました。どうか英国ラグビー界の素晴らしい習慣が維持されればと願います。

また、会場にて日本人留学生の方と出会いました。レスターへの留学前にラグビーW杯でボランティアを経験されてラグビーファンになり、現在お住まいの部屋からレスター・タイガースのスタジアムが見えたので試合観戦に訪れたとのこと。ラグビーW杯を通じてボランティア精神を養い、スポーツに興味を抱いたお話を聞かせてもらい「人こそスポーツイベントの最大のレガシー」と思いました。

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さて、節約するため寮で食事をする時は自炊しているのですが、ひたすらカレーとトマトソース を作っています。一人暮らしをしていた大学時代と結婚前まではひたすら①納豆キムチ、②カレー、③トマトソースを食べていたのですが、レスターでは納豆と日本の白米が無いので②と③を作ってはタッパーに入れて冷凍保存しています。そして近所のスーパーで値段の変動が分かるほどトマトソースはパスタ、カレーはナンを徹底しています。

レスターでの日々も残り1か月。「悔いを残さない」というよりも「もっと学びたい」との前向きな思いを胸に引き続きガンバります。

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