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はじめに 〜野(の)党宣言〜

人類は未だ自然界の中で生きている

【労働】という言葉は「人間が自然に働きかけて生活手段や生産手段を作り出す活動」を指す。確かに街を見渡せば、木材で作られた住宅は当然、鉄筋コンクリート製のビルやアスファルトで固められた道路etc、すべては地球から得た素材により作られている。最先端技術を投じた手元のスマホだって、その中枢はアフリカの大地で採掘されたタンタルなどのレアメタルにより成り立っているのだ(※1)。
 普段何気なく暮らしていると気づかないが、とどのつまり我々が高度に築き上げてきた生活様式の根本は、木や石で川を堰き止め、安全快適な生息環境を構築するビーバーのそれと変わらない。木をそのまま積み上げるか、製材して組み立てるかの差こそあれ、どちらも自然の恵を活用して生きているとなればビーバーだけを野生と言うのもおかしいだろう。我々の目から見れば人知の及ばない山や海こそ”自然界”となるが、地球規模で見ればビルも道路も発電所も単なるホモ・サピエンスの生態であり、それも含めて”自然界”なのである。
 その点で、現在の地球は天敵がいなくなったホモ・サピエンスが本能のまま食〜鉱物資源を採取して、幾世代にも渡り増え続ける漸進的大発生に至っている。実はこの状況もバッタの突発的大発生→周辺の食物を食い尽くす→食資源が尽きて一定数に戻るという自然現象と同じで、今叫ばれている環境破壊すら自然現象の一つ、そのうち人口は激減すると穿った見方もできる(※2)。

※1 コンゴの紛争鉱物:反政府勢力が地元住民を奴隷的に使役して占領地域のレアメタルを採掘、密売して紛争資金とする問題。様々な仲介を挟むものの、最終的な買い手は先端技術を担う先進国であり、我々も無関係ではない。ちなみにこれは1990年代にダイヤモンドの密売を資金源として起きたアンゴラ紛争、シエラレオネ紛争と同様の構図で、同紛争、労働による死者数は第二次世界大戦以降最大と言われている。

※2 大発生:気候変化などにより生息条件が好転(栄養源の増加、天敵の欠如etc)し、ある種が一世代だけで急速に個体数を増やす現象を突発的大発生、数世代にかけて密度が増す現象を漸進的大発生という。赤潮や蝗害、近年の外来生物問題など、周辺の生態系を破壊することからしばしば災害としても捉えられている。我々以外の種にとっては、人間の大発生こそ地球史上最大の災害だろう……。

生きるためにはお金が必要?

 閑話休題。自然界をそう捉え直すと、人間界の常識もただの内輪ネタであることがわかる。一般的にお金持ちは成功者、キャンプ好き〜釣り好きの類は遊び人と称されるが、過去も未来も地球の一動物、ホモ・サピエンスが働く理由は安定的に”食べて寝る”ためだ。流通の効率化を図って創造されたお金と、生産の効率化を図って細分化された仕事が本質をわかりづらくしているものの、現代人がエクセルシートにデータを入力する作業と、原始人が投石で四つ足動物を狩る作業の目的は同じ。違いは間にお金を経由しているかどうかだけで、結局のところ今日食べるものと寝る場所を確保する、生きるための行為であることに他ならないのである。
 改めて、それでもキャンプ好き〜釣り好きの類は単なる遊び人と言えるだろうか? お金持ちが長けているのは人間界でのみ通用する、それ自体に価値のない紙や、もはや現実にすら存在しない二進法データ=電子マネーの集め方(※3)。一方で、時に自由人などと軽んじられるアウトドア愛好家たちは自然界でも通用する、より直接的な生きる術を身につけている。今でこそ”アウトドア”は遊びと目されているが、実はこの諸活動こそが労働の根本であり、突き詰めれば(一般的には無職だろうとも)その知恵と技術だけで生きていくことができるはずなのだ。

※3 金本位制:お金の価値は、それを信用するグループ内でのみ通用する代替的なもの。ゆえにその有効範囲を広げる初期段階では、媒体自体に価値のある米や金などを用いることで信用を保っていた。しかし、それでは運用に際してサイズや重さ、保存性などがネックとなるため、銀行が預かった金と同額の引換券を発行、いつでも金に変えられるという信用をもとに”紙”のお金化を実現したのである。結果的に金本位制と言われるこの仕組みのおかげで世界規模の流通は可能になったが、問題はやはり米は食えても紙は食えないことだろう。人間界の約束事が通用しない状況に立たされたとき、一万円札はお尻を吹く紙にしかならない。何なら代替的な価値を仮想空間で取引する株や為替こそ、お遊びと言えなくもない。

最後は個人の生きる力にかかっている

 無論、高度に発展した人間社会を真っ向否定してしまうのはおかしい。先述の通り、そこは我々ホモ・サピエンスが築き上げてきた生態であり、日々の安全快適な生活に有効活用しなければ退化も同然だろう。ただ、昨今の日本の状況を鑑みると、あまりにインフラや上位の共同体(国家、地方自治体etc)に頼り切りな”家畜状態”では痛い目に遭いかねないのである。
 太平洋プレート、フィリピン界プレート、北米プレート、ユーラシアプレートの均衡により海洋の真ん中に隆起する島国・日本は、地震や台風の脅威にさらされる世界でも有数の災害国家だ。直近の大地震では、世界的な先進国でさえ自然の脅威には勝てないことを改めて思い知らされた。当然だが、あくまで我々は地球に棲まう一動物であり、自然界を手の内にするなどおこがましいのだ。有事の際、政府でさえ最後は「命を守る最善の行動をしてください」と、国民の生存を個々人の力に委ねているのがその証左だろう。
 ゆえに現代であっても、電気・ガス・水道が使えず、食料供給や生活必需品も絶たれ、寒い夜に耐える原始状態は誰の身にも起こり得る。果たしてその時に札束や電子決済端末は役に立つのだろうか? 答えは明白だ。それらが意味をなすのは人間界の常識下にあってのことで、組織的な救助が届くまでの間は自身に備わった”食べて寝る”知恵と技術こそ金。スーパーマーケットの棚が空っぽなら近くの自然から採ればいいし、今日寝るための安全な場所が見つからないなら自然から作ればいい。お金という概念がない太古の昔から我々は”自然に働きかけて生活手段や生産手段を作り出す”労働をしてきたのである。こんな状況ではお金持ちよりも、日頃野山を駆けている遊び人こそ成功者と言える。

サバイバルスキルを学んで脱・家畜

 翻って己自身の現状を鑑みるに、これは良いとも悪いとも言えないが貴方はどうだ? 我々個人の視点で自身の生息環境を見渡してみると、生きるために不可欠な要素は社会がすべて用意してくれる、もとい、上位の存在(例えば世襲議員)が操るシステムによりすべてが用意された枠組みの中で、抜け出す手段を持たない生産力として生かされている。それはそのまま上位の存在→人間、生産力→養鶏場の鶏と同じ構図と見ることもできるだろう。”抜け出す手段を持たない”とはつまり、自力で生きる術を備えていないゆえ不本意でも上位の方針に従うほかなく、自らの選択を持ち得ない状態だ。
 まあこれも現生ホモ・サピエンスの生態だと言ってしまえばお終いだが、かつてのホモ・サピエンスは違った。個々が自力で生きる術を備えていたからこそ、各々集団から抜け出して生息地を世界中に広げることができたのかもしれない(※4)。確かにこの時代にスマホもクルマもないが、無数に広がる選択肢の中から自らの生息環境を選び、築いてきた彼らの方がよほど発展的と言えるのではないか……。
 だから色々不穏な今だからこそ、自力で生きる術を鍛え直すときなのだ。やることは週末の休日を使って、焚火遊びに興じるだけでもいい(スイッチひとつで火力が手に入る現代生活にあってはこれだけでも十分難しい)。自然界でも通用する知恵と技術を日々の生活の後ろ盾にできれば、相互扶助以上の重税をせびってくる上位存在の言いなりにならず(※5)、日本で暮らしている限りいつ襲ってくるやもしれぬ有事へ適切に対応できる(※6)。我々は未だ自然界に棲まうホモ・サピエンスとして、いま一度生への選択権を取り戻すべきなのだ。

※4 グレートジャーニー:イギリスの考古学者ブライアン・M・フェイガンが名付けた、アフリカで生まれた人類が世界中に分布していった途方もなく長大な旅路。360万年前の人類最古の足跡化石には共同体の最小単位”家族”で連れ立って歩いた様子が残されているが、徐々に、徐々に集団から抜け出していった彼らの旅路も、自力で生きる術が備わっていたからこそ実現したのだ。

※5 里山資本主義:日本のエコノミスト藻谷浩介氏が提唱する人間界と自然界を繋ぐ生き方、経済成長を第一義とするマネー資本主義の対義語。ミクロな視点では「お金が乏しくなっても(近くの里山から)水と食料と燃料が手に入り続ける仕組み」を生活のサブシステムに取り入れれば、不況が続く現代日本であっても安心安定の生活が築ける(マクロな視点では日本が抱える地域の過疎化、少子化、高齢化解決の糸口になる)。不安を煽られてお金を稼げば稼ぐほど、払わなければいけないお金も増える仕組みこそ、生きる目的を”食べて寝る”から”お金を稼ぐ”にすげ替える麻薬的な縛りである。

※6 南海トラフ巨大地震:今の日本で暮らす多くの人間にとって、人生最大の出来事となるに違いない近い将来の巨大地震。ここ20年間で発生する可能性が非常に高く、国は震度7の激しい揺れや10メートルを超える大津波が太平洋沿岸を襲い、最悪の場合、死者は32万人を超え、経済被害も220兆円を超えると想定している。その被害範囲は関東〜九州の太平洋側と広大で、行政の一時的な麻痺も十分に起こり得るだけに、多くの人々が過酷な自然界に晒されるだろう。



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