あらゆる「平和ではない状態」を知ることで、平和の大切さに気づく 〜 「川崎市平和館」
『区立資料館』インタビュー (2)
" 平和館では「平和とは、すべての人間が暴力や差別、貧困や環境破壊におびやかされず安心して生活できる」ことであるという考えのもと、日本の過去の戦争、戦時中の川崎、現代の武力紛争、兵器、マスメディアと武力紛争の関わりなどの戦争についてはもちろん、国家による弾圧、武力は伴っていないものの、私たちの平和的な生活を脅かす、環境破壊、貧困、差別などについても、平和問題として展示しています。
包括的な平和への理解を促進し、啓発の場として、また市民の平和交流の場として、平和館が幅広く利用されることを目指しています。"
(設立趣旨:平和館パンフレットより)
interviewee:大坪様 (人権・男女共同参画室担当部長、川崎平和館 館長)
interviewer:木原 (フィールドアーカイヴ 代表)
(インタビュー収録:2019 / 11 / 20 )
「川崎市平和館」ができたきっかけは?
この一帯 (神奈川県川崎市中原区周辺)に、戦前戦中は、「東京航空計器」という、航空機の計測器を作ったり機関銃の照準器を作ったりしていた工場があったんですね。そこが終戦後米軍に接収されまして、「米陸軍印刷局」っていうところになったんです。ここは米軍が例えば宣伝ビラを印刷してベトナムにまいたりとか、そういったことをしていたんですね。
そして1975年 (昭和50)年に日本に返還されました。
その後、1982 (昭和57)年に「核兵器廃絶平和都市宣言」を川崎市がしまして、その翌年にはこの場所を
「平和に関する公園にしよう」
ということで「中原平和公園」になりました。
そのような経緯があって、1992年 (平成4)年この場所に「川崎市平和館」が開館したというわけです。
川崎市や日本の戦争体験の展示だけでなく、もっと世界規模の幅広い内容になった理由は?
世界中にある平和に関する資料館、博物館のうち、
1/4が日本にあるそうです。
平和に関する施設には「地域が非平和だった頃の歴史資料的な展示」と「平和そのものについて考える展示」の大きく2つに分かれます。
どちらが良い悪いというのではないのですが、「川崎市平和館」は、「川崎と戦争、日本と戦争」について語り継いでいくというのも、大事な役割ととらえつつ、さらに
「平和そのものについて考える展示」
をコンセプトにしています。
これは、戦争や紛争のみならず、「貧困」や「差別」、「環境破壊」などを「非平和」ととらえ、平和を維持する条件などを研究する「平和学」の考え方を元にしています。
「平和学」の考え方とは?
「平和」をみんなで目指そうよといったときに、では「平和ではない状態」って何なのっていうと、だいたい普通は「戦争がないこと」っていうんですけど、
じゃあ戦争がなければ「平和」なんでしょうか?
っていうところからスタートしています。
例えば世界では戦争がなくても、毎日飢餓や病気でたくさんの人々が死んでいく状況がある。
それってはたして「平和な状態」ですか?っていうところから、戦争に限らず「人権」だったり「差別」だったり、「貧困」だったり「地域の紛争」だったりあるいは「環境問題」まで含めてそういった
「平和ではない状態」をとらえて、考えていこうっていうのが「平和学」です。
この館ができる際に、こういった形になるように先導するような方がどなたかいらしたのでしょうか?
27年前のことになりますが、当時、「平和館準備委員会」という学識経験者を集めた会で答申をもらって作っているので、その時のご意見でいただいたものですね。
その際の考え方として、
「地域の戦争だけとらえるのではなくて、平和というものをもっと広くとらえて、市民にうったえていく施設を作るべき」
だという考え方があって、それでこの「川崎市平和館」はこういうコンセプトで作ったということです。
他の記念館にはないユニークな品や見せ方とは?
見学時間は1時間くらいとしていますが、すごく真面目に見ると1日くらいはかかりますね (笑)。
「川崎市平和館」パンフレットの8番に「武力紛争とメディア」というコーナーがあります。
「マスメディアと武力紛争の関わり」ということで、ベトナム戦争では戦場カメラマンが、国の宣伝とは違う視点で、一般の人が被害を受けている写真を見せたりとか、その一方で人種差別から始まった紛争が、実は地域のコミュニティ放送みたいなところがあおってしまった、というようなことがあります。
つまり、
「役割を果たしつつ、差別を扇動してしまうこともあって、メディアの役割ってすごく大きいよね」
っていう展示をしています。
このコーナーは平和関係施設の展示としては珍しいのかなと思います。
あとはワークショップ、出前授業というのがあります。
「専門調査員」っていう学芸員的な役割をしている人がいまして、その人の専門が平和学なのです。
その人が、中学高校大学の社会科の授業に呼ばれたり、出前授業という形で出かけていって、生徒さん達に平和について考えていただくワークショップをやっています。
そこで例えば人権についてとか、テーマを設定してワークショップ形式で考えていただいて、それを成果物にしたものをこちらの企画展に展示するというようなこともやっております。
開館当初の見せ方から変化した部分は?
2013 (平成25)年度に展示更新、リニューアルしまして、それまでは「映像資料」がすごく多かったんです。
「映像資料」って、じっくり見て考えるっていうよりは視覚にうったえてきて、爆弾が落ちたり機関銃を撃ったりっていうような刺激は強いんですけれども、すっと通り過ぎてしまうところがあって、で、今日ご覧いただいたような「展示パネル」中心に切り替えたということですね。
施設の運営維持にあたっての苦労や困りごとは?
やっぱり、来館者をね。今日も少なかったと思うんですけれども、もう少し見に来ていただけるように、主に広報になるのかなと思うのですけれどもね、そういったところをもう少し頑張っていかなきゃいけないかなって思います。
アンケートを見ると、ちょっと怖いような印象をもたれちゃうみたいで。
「川崎市平和館」にご来場の方々にメッセージを
「川崎と戦争、日本と戦争」っていう展示があるんですけれども、そういったものに限らず、「平和ではない状態」っていうのが世界を見わたしてみるとたくさんあるので、そういったことを展示しているので、平和について皆さんと一緒に、あらためて考える機会にしていただけると、ありがたいといったところが想いです。
見学した際の感想:
先日伺った世田谷区立平和資料館が川崎市平和館と提携していて、ちょうど企画展で川崎大空襲の様子を展示していたこともあり、「川崎市平和館」という名前から、勝手に川崎市に関する戦争関係の展示資料館だと思っていたので、平和学を軸とした一段高い視点からの壮大な内容や展示の見せ方に、目からウロコでした。
平和ってなんだろう?の1番から始まり、徐々に重いテーマに突入してゆき、簡単に解決しそうになくて暗い気持ちになりかけましたが、最後の10番で平和への解決策が取り上げられていて、前向きな気持ちになって階段を降りることができました。
リニューアル時に追加されたと思われる各コーナーの文章、特に「コラム」が非常に読みごたえがあり、結局読みきれなかったので、別冊で売り出してくれないものかと思いました。
あと、2階入口すぐの「川崎大空襲」の映画上映や当時の暮らしを再現する部屋も怖かったのですが、1階の防空壕体験コーナー、一人で入るのには勇気いりすぎます!
上映作品「ひとつの地球・ふたつの世界」を観ても感じましたが、こういった怖い空間が「日常」という世界が世の中にはあるのだと痛感できる貴重な施設です。
木原(FieldArchive 代表)
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