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世界初! NHKによる立体放送番組スタート 〜 全国一斉二元立体(ステレオ)ラジオ試験放送

『ソニー技術の秘密』にまつわる話 (23)

NHKが1952(昭和27)年に放送した世界初全国一斉の『二元立体 (ステレオ) ラジオ試験放送』は、同年12月4日〜6日の深夜12時35分から、NHKの第1、第2放送の2つのチャンネルを使用した放送を、同時に聴くことで立体 (ステレオ) 録音を体験するというもので、「ステレオ音響」が一般に浸透するきっかけとなった放送でした。

この放送に使用されたのが、アメリカ視察旅行中だったソニー創業者の一人井深大から依頼され、東通工 (現ソニー) の技術者・木原信敏が試作した『TC-KP2』(ステレオ録音対応機) に、さらに改良を加え完成した立体録音機『ステレコーダー』でした。

木原はマイクロフォンの専門家・中津留要と共に、NHKの担当者と打ち合わせを行い、完成したばかりの『ステレコーダー』で収録された、NHK交響楽団の演奏曲を編集し30分のテープにまとめ、これが試験放送で放送されたのです。

第1放送は左に、第2放送は右に、それぞれのアナウンサーから説明があり、視聴者は各家庭でラジオを2台用意して放送を聴いたのでした。

「東京通信工業とNHKの共同で、ステレオの試験放送をこれから開始します……」のアナウンスがあり、そのあと続けて「ラジオを二台用意して、左のラジオは第一放送、右は第二放送を受信してください。これから左のラジオだけから私の声が聞こえますから、音量を適当な大きさに調節してください。次は右のラジオの音量を合わせてください。これで音量のセットを終わります。続けて音楽をお楽しみください」。このようにして、ステレオ放送が始まったのでした。

ソニー技術の秘密』第3章より

折しもレコードはSP盤からLP盤に移行しつつある時期で、ハイファイレコードマニアも増えつつあり、ステレオ実験放送はなおのこと興味をひき、

「ステレオ放送は、こんなにすごい臨場感が出るものか」

と、定時の放送が終わった深夜に行ったにもかかわらず、また予告が行き届いていたこともあり、この試験放送は好評で、大きな反響を受けます。

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当時の雑誌『ラジオ技術』には、この試験放送を聴いた読者の方からの投稿が掲載されており、

とにかく、聞いてみないと分からない。いくら私が口でいったところで、聞いたことのない諸兄には、納得が行かないことだろうから、今後も、もっと聞きやすい時刻に、週に一度くらいは出して欲しい。

今までにない非常な迫力と、音を小さくしたにもかかわらず、音量が豊富で部屋中に充満した感じです。

音の小さいあまり良くないラジオでも、2個組み合わされることにより、聴いた感じは音質良く、音量豊富に聞こえる。

毎日このような放送を聞ければ、非常な喜びである。これからもたびたび放送をおこなわれることを、皆様とともに熱望する。

『ラジオ技術』1953(昭和28)年3月号「ラ技アンテナ」より

と初めての立体 (ステレオ)放送を聴いた視聴者の、感動と驚きの声を読むことができ、いかに衝撃的なことだったかを伝えています。

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この『二元立体 (ステレオ)ラジオ試験放送』をきっかけに、NHKは東京ローカルの立体放送番組として『土曜コンサート』の本放送を12月20日より開始。また翌年1953(昭和28)年6月には 作曲家の三木鶏郎らが出演する娯楽番組『立体音楽堂』の放送を開始します。

立体放送を定時番組にしたのも、世界で初めての試みでした。

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余談ですが、同時期 オーストリア出身の指揮者カラヤン (Herbert von Karajan) がNHK交響楽団で客員指揮者として活躍しており、この時に収録された録音を聴き、喜んだことがきっかけで、盛田昭夫との交流が始まったのでした。

文:黒川 (FieldArchive)


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