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「ソニー技術の秘密」にまつわる話

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ここでは、ソニー株式会社の研究技術開発の要を果たし、「ソニー創成期の基礎技術」を確立させた 木原信敏 (きはら のぶとし) の著書『ソニー技術の秘密』に記された研究開発の歴史を振…
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2020年11月の記事一覧

足踏みしながらの再スタート! わずか4ヶ月で完成させた「国産第1号機VTR」

『ソニー技術の秘密』にまつわる話 (34) 1958 (昭和33年) 年に入り、東京通信工業 (現 ソニー)はさらなる飛躍を誓い、社名を『ソニー株式会社』へと改名。 1954 (昭和29) 年に、資金面での問題で一時中断を余儀なくされたビデオテープレコーダーの開発を、この記念すべき年にソニーの技術者・木原信敏は再開させます。 既にアメリカのアンペックス (Ampex)社が、1957 (昭和32年) 年に放送用VTRの試作に成功し、1958 (昭和33年) 年4月よりアメ

技術の進歩と時代の発展を信じ、トランジスタ研究チームとの協力により完成! 〜トランジスタ方式 『SVー201』 試作

『ソニー技術の秘密』にまつわる話 (35) 1958 (昭和33年) 年12月、アメリカに遅れること2年。 ソニーの技術者・木原信敏は、一時は資金不足で中断していたVTR開発を再開させ、わずか4ヶ月でアンペックス (Ampex)方式による『国産第1号機VTR』を完成させます。 『国産第1号機VTR』では、当時アメリカのメーカで主流であった、「4ヘッド方式」を採用しており、世界中のテレビ局でもこの方式によるVTRが導入され始めていました。 しかし木原は、大型で複雑なこの「

画面をトランジスタで美しく映し出す完全な商品化を目指す! 〜 世界初オールトランジスタ化工業用VTR 『SV-201』 完成

「ソニー技術の秘密」にまつわる話 (36) 1960 (昭和35) 年12月、 ソニー技術力の結晶ともいえる、全て自社生産による、完全なトランジスタ化を実現した、世界初、世界最小のオールトランジスタVTR『SV-201』が、ソニーの技術者・木原信敏率いる研究開発チームの手により完成します。 これは、VTR小型化の第一段階完成形というもので、使用されたトランジスタは96個、ダイオードは35個。固定2ヘッド、ヘリカルスキャン、2㌅テープ、重さ200kg。 従来の放送局用アン

「遠慮のない批評」で綴られたソニー経営史研究のバイブル 〜『S社の秘密』 田口憲一 著 (新潮社 1962)

「ソニー技術の秘密」にまつわる話 (37) 1962 (昭和37)年10月に発売された書籍『S社の秘密』 は、おそらく最初のソニー経営史研究本で、その後ソニーについて語られる多くの関連書籍の「参考文献」には、必ずというほどリストされている本でもあります。 著者は、産業経済新聞の論説委員を務めた、経営評論家の 田口憲一(たぐち けんいち)。 あとがきに自身で書かれているように、「遠慮のない批評」でやや辛口な印象を受けますが、とてもニュートラルな視線でソニーの販売面での分析

放送局用大型VTRの概念を覆し、東京オリンピックでも活躍! 〜 世界初オールトランジスタ小型VTR 『PV-100』

「ソニー技術の秘密」にまつわる話 (38) 世界初、世界最小のオールトランジスタVTR『SV-201』を完成させたソニーの技術者・木原信敏は、ヘリカルスキャン (ヘッドが、らせん状に走行しながら記録/再生する方式) が、これからのVTRの記録には最適であると『SV-201』の開発から確信した木原は、『1.5ヘッド記録』を考案します。 VTRの回転ヘッド方式は既に諸外国で様々な特許が存在しており、テレフンケン社の「アルファ巻きシングルヘッド方式」は東芝でも採用され非常に優れ

小型化、低価格を実現した革命的なVTRの夢の幕開け! 〜 世界初家庭用ビデオテープレコーダー『CV-2000型』

『ソニー技術の秘密』にまつわる話 (39) 1963 (昭和38) 年にソニーが発表した、世界初オールトランジスタ小型VTR 『PV-100』は放送局用大型VTRの概念を覆し、国内外問わず高い評価を得ましたが、小型化へ大きく前進したものの、約70kgと重量があり価格もまだ200万円台と高く、家庭で使用できるものではありませんでした。 「家庭で使用できる安価で軽量なVTRを作りたい」 という思いから、ソニーの技術者・木原信敏は更なる小型化へ動き出します。 “ コストの高

「U-ローディング方式」によりマガジン化を実現! 家庭用VTR 『マガジンカラービデオコーダー』(U-maticの原型)

「ソニー技術の秘密」にまつわる話 (40) 1968 (昭和43) 年頃になると、それまでは放送局など一部の業務用として使用されてきたVTRの普及も進み出し、特定の技術を持った人のみが取り扱うことも少なくなり、一般の人々も使用するようになってきていました。 しかし、これまでのVTRではテープが露出する状態のオープンリール式ということもあり、機器へのテープの掛け方が煩雑で取り扱いが難しく、また回転ヘッド箇所が外部に露出しているため、破損する機会も多かったのです。 既に、1

技術立国日本の基盤を作った技術者たちの開発物語 〜 『電子の世紀』 林芳典 著 (毎日新聞社 1966)

「ソニー技術の秘密」にまつわる話 (41) 1965 (昭和40) 年11月より、100回に渡り毎日新聞紙上で連載された『電子の世紀』は、技術立国日本の基盤を作った技術者たちの開発物語を紹介し、1966 (昭和41) 年5月に書籍として発刊されました。 著者の林芳典 (はやし よしのり) は、毎日新聞経済部の財界担当記者で、自身でも「科学技術には縁遠い」と語っていますが、この本については「技術上の記述が正確なのには感心した」と専門家からお墨付きをもらったエピソードが残って

火事で効果満点の製品紹介?!ニューヨークの新聞記者達を驚かせた 〜 ビデオ・デンスケ 『DV-2400』

『ソニー技術の秘密』にまつわる話 (42) 1964 (昭和39) 年、ソニーの技術者・木原信敏ら開発チームによって、革命的な小型化とコストダウンを果たし、世界初の家庭用ビデオテープレコーダーとして誕生した『CV-2000』が家庭や学校へ普及していくにつれ、テレビ番組を録画するだけではなく、自身でも撮影するという需要が高まり、 自分でも撮影してもらおう と、ポータブル式小型VTRとビデオカメラの開発がスタートします。 しかし、画期的に小型軽量化されたとは言え『CV-2

ソニーフロンティア精神の象徴〜「モルモットの精神」を持つ「金の卵を産むニワトリ」が産んだ 『ビデオムービー』

『ソニー技術の秘密』にまつわる話 (43) 1958年 (昭和33) 年8月17日の『週刊朝日』に、ソニーの後から出発したが、今ではトップのトランジスタメーカーとなっていると、東芝のトランジスタ工場を紹介する際、 「なんのことはない、ソニーは東芝のためにモルモット的役割を果たしたことになる」 『週刊朝日』1958年 (昭和33) 年8月17日号より と、「初めてトランジスタをラジオに使用する冒険、それに伴う犠牲はソニーに任せて、成果の方は大資本の方で頂戴する」という意

家庭用機器から誕生し、放送業界などの業務用機器として活躍! 〜 世界初のカセット式VTR 『U-matic』

『ソニー技術の秘密』にまつわる話 (44) 1969 (昭和44) 年10月、 ソニーの技術者・木原信敏は世界初となるVTRのカセット化に成功し、マガジン式家庭用VTR『マガジンカラービデオコーダー』として完成。 このカセット式VTRの性能を、さらに向上することを目標にした、新しいタイプのVTRが誕生します。 量産体制の整った酸化クロムテープを採用し、木原はその記録性能を最大限活用するための回路の研究と、テープの使用量を最小にし、性能を維持するためのヘッドを改良。トラッキ

「ソニー手帳」サイズのカセット化を目標に開発された、家庭用カラーVTRの決定版! 〜『ベータマックス』 VTR

『ソニー技術の秘密』にまつわる話 (45) VTRがカセットの時代を迎え、高性能なマスターVTRとそのソフトを複製するダビングシステムを盛り込んだ『ソニーカラービデオカセット総合システム』が発表された直後の1971 (昭和46)年4月、ソニーの技術者・木原信敏は 本格的な家庭用VTRを開発したい との思いから、新たに『400型』と名づけたVTRシステムの構想を図面化することに取りかかります。 同時にソニー創業者の一人・井深大より 「これぐらいの大きさのカセットがいい

新しい技術がもたらす家庭娯楽の素晴らしさを訴え「タイムシフト」の概念を生み、約40年に渡り愛された 『ベータマックス』

『ソニー技術の秘密』にまつわる話 (46) 放送業界などの業務用機器として活躍する『U-matic』の後継機として、ソニー創業者・井深大の要望でソニー社員に配布されている、A6判の文庫本サイズの「ソニー手帳」サイズのカセットから開発された『ベータマックス』は、1975 (昭和50)年4月16日の経団連会館にて発表され、 いよいよ家庭用VTRの時代が到来した! と、業界の反応は上々で、「日経産業新聞」では次のように報じていました。 " ポストカラーの本命はビデオといわれ

技術者のプライドを守り、深い理解と信頼を培った井深大により創設 〜 技術開発の貢献者に向けた 第1回 『井深賞』

『ソニー技術の秘密』にまつわる話 (47) ソニーが東京通信工業 (東通工)よりスタートし30年を迎えた1976 (昭和51)年、経営機構及び人事を刷新する新体制が新たに敷かれ、次のような発令がスタートします。  井深 大 取締役名誉会長に就任。  盛田 昭夫 代表取締役会長に就任。  岩間 和夫 代表取締役社長に就任。  大賀 典雄 代表取締役副社長に就任。 そして、取締役会において、 ソニー創立30周年を記念し、ソニー最高の賞 とし、毎年ソニーの技術開発の貢献者