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デッドエンド

 ブレーキをかけずに洋館の門扉を突き破り、そのままターンして追手のパトカーに向き合う。俺と『虎』はドアを開け、ショットガンを構えた。しかし、警官たちはなにごとか車内で会話したあと、すごすごとバックして姿を消した。
 怪訝に思いつつも内心俺はほっとしていた。銃弾も残り少ない。
 車を降り、札束で一杯のバッグを下ろす。『牛』と『鶏』に指定された洋館は小突けば壊れてしまいそうなほどボロボロで、不気味だ。地元の人間は近づかないという話は本当なのだろう。
 俺たちは銀行を襲ったあと、この洋館で落ち合う手筈になっていた。装備を整え、運ぶ金を分割し、森を抜けて警官をまく手筈になっていたのだ。
 ドアを叩くが反応がない。鍵はかかっていなかったので、俺たちは館に入った。
 「かび臭いな」
 「長居するわけじゃねえ、いいだろ」
 玄関を抜け、客間のドアを開ける。何かがこちらに倒れて来た。『鶏』の死体だった。血の気は失せ、表情は苦悶に歪んでいる。
 「なんだよこれ!」『虎』が声をあげた。
 『鶏』の死体には何かが生えていた。俺にはそれはキノコのように見えた。
 「ようお前ら、来たか……」
 しぼりだすような声がした。客間の奥で椅子に座った『牛』がこちらを向きながら、虚空を見つめている。
 「おい、なんだよこれ。なんで死んでんだよ」
 「もう、おしまいだ。俺たちは、みんな」
 「『牛』、なんだそれ」
 『牛』の肩を後ろから誰かが掴んでいた。歪な手だった。しかし、どうみても後ろには誰もいない。
 「これ、これは、これ──」
 そのとき、『牛』の身体が一瞬でなにかの膜に覆われた。いや、膜ではない。あれは、菌糸だ。
 菌糸が『牛』から這い出るように伸びる。
 菌糸は不気味なキノコになり、キノコはあつまって人型を成した。キノコ人間の背後で、『牛』は絶命している。
 『虎』は絶叫しながら銃口をキノコ人間に向け、引鉄をひいた。

【続く】

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