台風と一緒に


9月の台風は、俺はいつも待ち望んでいるんだよな。
夏の残滓としんどすぎる気分を一緒にどこかに持っていってくれるから。

毎年のことなんだけど、九月近辺は本当にしんどくて。特に何も理由はなくて、全部大丈夫なのに希死念慮が押し寄せてきてどうしようもなくなる。
加えて今月から異動で新しい部署と、本当に本当にギリギリのなかで生活をしていた。

ただひたすらベッドと職場を往復して。何か余計なことなんてひとつもできなくて。
頭の中はずっと陰惨な言葉が響いていて。24時間、ずっと。

何にも悪いことしてないのになぁ。いつも俺たちはそうだ。何かに追い詰められて、その正体がわからないから持ってる剣をどこに振り回せばいいのか見当もつかなくて。
めちゃくちゃに振り回して、その勢いで少しずつ自分の肌を削っている。

毎年、この時期はしんどいって月がお前らもあると思う。たとえば3月の終わりとか、例えば12月から1月にかけてとか、たとえばあの人にこっぴどく振られた忌まわしい記念日とか。
そんなとき、抗いようもない地獄が軍靴響かせて行進してくるのをただ待つしかないのってすげー苦しいんだよな。
それでも生活はしないといけなくて、鉛みたいな体を限界まで脳に負荷かけて起こして、道路走ってる車を見るたびに死ぬことばかり考えながら、職場とか、学校とか、行って。
死んだ顔して、ずっと。ずっと、その足音が無くなる日まで耐えて。

誰もそれを褒めちゃくれないし見ちゃいないけど、そんな離れ業ができるのは俺たちだけなんだよな。慰めじゃなく、事実として。
神様は見てくれてるけど決して助けちゃくれなくて、どちらかといえばポテチとコーラ片手に寝っ転がりながら俺たちを笑ってるけど、
そんな地獄の中で生活ができるのなんて、俺たちだけなんだよな。

九月がようやく終わる。少しだけ楽になってきたけど、台風の後の天気みたいに急にカラッと晴れちゃくれない。簡単じゃない、いつも。
俺たちが相手にしてる敵は、いつも複雑で、見上げても足元しか見えないくらいの巨躯だ。
いつ踏み潰されてもおかしくないそれに、すんでのところでかわしてる。頭を抱えて、背中を丸めて。

死にたくねえよ。死にたくない。生きていたいんだよ普通に。
健康になりたい。いちいち理由のない死にたいはもうたくさんだ。
たくさんなんだよなぁ

やっと少しだけ涼しくなってきた。まだ長袖は少し暑いくらいで、これが長袖を着て駅まで歩いても汗ひとつかかなくなる頃にはきっと今より楽になってるはずだから。

なあ、なんなんだろうな本当に。
俺らはどこに向かってこんな苦しい中を歩いてんだろうな。
上手に眠ることすらできなくて、ずっと脳みそが半分くらいしか機能してないような状態でそれでも人並みをなんとかなんとか繕って。
今日死なないで、明日を迎えることがとんでもなく努力のいることで。そんな中でそれでも、生きてる。

えらいよな、すごく。よくやってるよ。頑張ってるもんないつも。辛い時だけ耐えることはみんなできても、常に、普通が既に辛い苦しいを耐えたことあるやつなんてそういねえだろ。
それを知ってるのは俺たちだけなんだよ。傷つきながら。しんどくなりながらそれでも。

今日だけは、一緒に生きような。できたら明日も朝を迎えて、もっと願ってもいいなら、夜にベッドに潜り込もう。
それがどれだけの代償を払わなきゃ叶わないことなのか、知ってるのは俺たちだけだから。
死にたいと呟きながら眠って、おはようと、俺に言わせてくれ。ああ、なんとか生き延びたぞと、咽び泣くようなおはようを。戦場で銃撃の雨をくぐりぬけて、生きてるぞと肩を抱き寄せ合うようにおはようを。

俺は言うから。お前も俺に、そう言ってくれ。

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