終点駅で見たささやかな事。

終点駅。電光版は回送と表記を変えた。
最寄りまで後5駅、この駅で一度降り電車を待つ。

その日は少し多めに飲んでしまった。いろいろあったから。
ほろ酔いうというには酔いすぎていたと思う。
それでも酩酊までには至らず、心地よい浮遊感とけだるさを楽しんでいた。

ホームには、ピーカーから特徴的な声で、回送電車である事、次の電車が少し遅れていること、そんなアナウンスが流れていた。
疲れと酔いでふわつく頭。ぼうっと開きっぱなしの電車のドアを眺めていた。
回送電車の他の車両を眺めると、降り遅れた乗客がいないか車掌が一車両ずつ点検しながら走っていた。手には合図のための電灯。

僕が眺めていた車両に左右から車掌が入ってきた。先頭車両をスタートし車内を確認していた車掌と、後尾車両をスタートし車内を確認していた車掌が出会ったのだ。
車両の両端から入ってきた二人はお互いの姿を確認すると軽く視線で挨拶を交わし、鏡合わせのようにドアからでた。
寸分たがわぬ同じ動作、同じタイミングで振り返るとお互いのスタート地点であるホームの端に向けて合図を行った。
その所作は無駄のない洗練された舞踊のような動きを彷彿とさせた。きっと何年間も毎晩同じ動きをしてきたのだろう。
電車が定刻通りに動けるように素早く、正確に、的確に行ってきた結果なのだろう。

小走りで確認して、運転手に合図を送る。その動きに彼らの誇りや高潔さを見た気がする。

合図と同時に回送電車のドアは閉まる。二人は同時に進行方向を向き回送電車を見送る。手には合図の電灯が輝く。

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