映画『ハケンアニメ!』が傑作だったのだ

驚いたことに。

正直に言って、極めて残念なことに、予告編やポスタービジュアルなどを見ても「これは自分が観たほうがいい作品かもしれない」とは感じなかった。それは多くの人にとっても同じだろう。

この映画がまさか傑作だなんて。それも破格の傑作だなんて。

惜しい。悔しい。どうしてもっと早く観に行かなかったのか。明日にはもう、ほとんどの劇場では終映となってしまう。こんな破格の映画が掛かっているのに、たいして話題になることもなく火が消えてしまう。惜しい。あまりにも惜しい。

『ハケンアニメ!』は、「物語を語ること」と「仕事をすること」についてを描いた、現代日本の人間讃歌だ。

フィクションに心を動かされたことのあるすべての人へ、フィクションに人生を救われたことのあるすべての人へ、他者とうまく仕事のできないすべての人へ、想いをもって働くことの難しさを感じているすべての人へ、何かを信じようとし続けたいすべての人へ、この映画を勧めたい。

アニメ的な演出は随所にあり、マンガのキャラのような登場人物が出てくるようにも思える。しかし、そうした演出は意外なほど抑制されており、決してコメディには振りきらず、適切さを保ちながら2時間を疾走する。

劇中劇のシナリオをたくみに生かし、観客のリテラシーを適度に信頼しながら構成された脚本。オタクにおもねることはなく、それでいて、わかる人には伝わる小ネタの数々。わかりやすい物語を柱にしながら、決して単純な「めでたしめでたし」へは向かわない。これほどのバランス感覚で現代を描いた作品にはなかなか出会わない。

ほとんどの劇場では、明日までで公開が終わるという。観に行ってほしい。仕事を休んででも行ってほしい。

劇場で観るべき映画なのかと聞かれれば、そりゃあ『トップガン マーヴェリック』や『犬王』や『シン・ウルトラマン』と同じ熱量で「劇場で!」とは言えないけれど、別に配信で観てくれてもいいと思うんだけど、でもさ、これたぶん劇場で観るべきだよ。そういう作品だよ。

わたしはせめて語り継ぐ。届け。

2回目の鑑賞後にあらためて書きました→


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