A Day in the Life

朝起きたら5時だった。アラームが鳴る一時間前だった。寝付けたのは何時だったか思い出せないが、2時半の時計を見たことは思い出せる。出発までかなり時間があった。が、これといってやることがない。起きてるのか寝てるのかわからない頭で布団を出て換気扇の下に向かった。換気扇の下にはタバコが常備してある。一服し、口の中が最上級に気持ち悪くなったので歯磨きをした。

鏡に映る男は気持ち悪かった。顔は真っ青で、目の下のクマが目立ってしまう。雨戸を開けない習慣がついてしまったので部屋が暗かった。なのでおおよそ人間らしくない人間が鏡の中で歯を磨いていた。

頭が全く働かなかった。とても眠くて何もする気が起きなかった。パソコンもスマホもいじらずただ座っていた。気づいたら出発する10分前ほどになっていた。急いで着替えて、駅へと向かった。

早い時間に家を出て各駅停車に乗ることが最近のルーティンになっていた。座れる上、よく寝られるからだ。電車の中の方がよく眠れる。寝付けない夜なんかは自分が電車で座っていることをイメージするほどだ。

気がつくと乗り換えの駅だった。そこからは体感的にあっという間に職場についてしまう。職場についても眠気は治らず、頭がぼっーとした。視点を動かすのも面倒になるほど。幸い、今日は会議が中心だ。この眠気を原因に事故を起こすということもなさそうだった。

お昼あたりからこの眠気は知らないうちに頭痛になっていた。前々から偏頭痛に悩まされていた。けれども対処法が全くわからなかった。

会社からの指令でつけてるマスクは僕が息をするのを阻んだ。より一層ぼっーとし思考することすら困難になった。酸素濃度の低下した頭の中の血液が熱を帯び沸騰をはじめ、気体となり血管を激しく圧迫しているような感じだった。血液の圧力により目玉が飛び出そうになり、頭の中が破裂しそうな痛みだった。こういう時には冷たい飲み物が欲しくなった。自販機で冷たいお茶を買った。お茶がこの痛みに効くかどうかはわからない。が、なぜか自分の中でお茶の中の何かしらの成分がこの堪え難い圧力を抑えてくれるという考えがあった。しかし一向によくならなかった。結局、午後の間だけで5本ほど500 mlのペットボトルを空けた。だが、まるでよくならなかった。頭の中にファンがあることを想像した。放熱してくれるはずだと思った。ファンは回る。放熱を促す。だがだんだんとファンの音がうるさくなってきた。ノイジーなファンの音に分子が踊り出し熱を帯びて来た。結局、頭痛は酷く鳴る一方だった。

頭痛と共に吐き気を催した。おそらく水分の取りすぎによるものだった。トイレに駆け込んだ。このご時世に嗚咽音を出すのは憚られた。なのでなるべく嗚咽音を出さず、静かに吐いた。吐瀉物は黒かった。

誰にも悟られることなく会議は終了した。だが、頭痛は消えなかった。会議が終了したのは定時よりあとだったのですぐさま帰宅をした。限界だった。

ヘッドホンを耳に当て音楽を聞いた。「Beatles for sale」というアルバムだ。激しくない、実に頭痛に苦しむ人間にとっては優しい音楽で構成されている。目をつぶり、秋風が耳から入り頭を通過し吹き抜けることを想像した。頭痛は和らいでいった。

アルバムが終わってまもなく横浜駅に着いた。人が多かった。ペットボトルを所定のゴミ箱に捨てる女、坊主の高校生、コインロッカーから何かを取り出す男女二人組、階段を登るサラリーマン、眼に映る普段気にも留めない人々が言語化され情報として頭の中を回った。メモリがパンクし、頭痛が再発した。

激しい苦痛の中、最寄駅に着いた。雨が少し降っていた。コンビニに行き冷えピタを買った。このご時世に冷えピタを買うのは店員に妙な誤解を与えかねないと心配してたが、この夏だけで三回買っていた。もはや嗜好品だった。

家に帰り一応熱を測った。やはり風邪ではない。まして例のアレでもない。安心して冷えピタをおでこに貼った。ようやく苦痛から解放され、眠気だけが残った。寝れればいいが。


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