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読書note『皇帝のかぎ煙草入れ』ジョン・ディクスン・カー

古典的ミステリーの一冊。映画も旧作が多めなように、読書も新しいものより、いささか古い作品のほうが好み。

『皇帝のかぎ煙草入れ(原題:The Emperor's Snuff-Box )』は、アメリカの推理作家ジョン・ディクスン・カー(John Dickson Carr)が、1942年に発表したミステリーで、彼の代表作のひとつと言われている。
本作はアガサ・クリスティーも称賛したそうですよ。

お話はというと、ネッド・アトウッドと離婚したイヴ・ニールは、向かいの家に住む青年トビイ・ローズからプロポーズを受けて婚約する。

一方、ネッドはイヴのことが忘れられず、まだ持っていた合鍵を利用して夜中に彼女の家に忍びこみ復縁を迫る。

彼女の部屋は二階にあり、向こうのローズ家もよく見える。そのとき、ローズ家の二階でトビイの父モーリスが殺されるのをネッドとイヴは目撃してしまう。

向かいの家の事件を目撃する設定は、アルフレッド・ヒッチコック監督の『裏窓』を思い起こします。

映画『裏窓』も、本作『皇帝のかぎ煙草入れ』も、事件の目撃と申しましたが、実は殺人行為そのものをハッキリとは見ていない。
誰が誰を殺害する現場をじかに目撃したのなら、そのまま通報すれば事足りる。けど、そうは簡単にいかない。

こっちから向かいの家の中が見えるということは、あっちからもイヴの部屋が見える可能性がある。
いまの婚約者家族に前の夫といるところを見られたくないイヴは、窓から身を隠すようにしておりハッキリとあっちを見れるわけがない。

ハッキリとは犯行そのものをみてはいない、そこが物語をおもしろくしている重要なポイントです。

しかも、別れたはずの夫が一緒にいたなんて、誰にも知られたくない。婚約者にも、人のよさそうなその家族にも、イヴの家の得体のしれないメイドにも。誤解を与えそうだから秘密にしていると、かえって誤解を招いてしまう。

さらに、想定外のアクシデントがネッドとイヴの側に起きてしまい、その為、あろうことか、イヴがモーリスを殺したと疑われることになる。

彼女の窮状を救うのが心理学者ダーモット・キンロス博士。『皇帝のかぎ煙草入れ』の事件解決をする探偵的役割。

当初は博士の友人であるゴロン警察署長からイヴ犯行説を補強するために呼ばれたのだが、キンスロ博士は警察の意向に反してイヴの無実を証明してしまう。

タイトルにある「かぎ煙草入れ」についてですが、あとがき解説によると「かぎ煙草というのは粉末状にした煙草の葉で、鼻先に持っていって吸いこむもの」とあり、その容れ物は様々な意匠が施されているそうです。

あたしゃタバコはのまない。いまは「吸う」と表現するタバコですが、ひとむかしふたむかし前は「喫(の)む」のほうが多いように思う。だから「喫煙」であって「吸煙」ではないのでしょう。

本作に登場するかぎ煙草入れは、ナポレオン愛用の品で高価な骨董品であるらしく、モーリスは事件当夜このかぎ煙草入れを入手した。
この皇帝のかぎ煙草入れは、一見すると懐中時計のようらしい。この形状も、謎解きの重要なポイントになっています。


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