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自分の「弱さ」にうんざりしそうな、あなたへ

「あなたの強みはなんですか?」

就活の時、何度も聞かれた質問。
どんなに考えても、その辺に転がっていそうな答えばかり、どの点においても周りには私なんかより優れている人がたくさんいて、上には上がいる。別に私がいても仕方ないよなあ、なんて考えて自信をもって答えられたことがありませんでした。

「強み」について考えれば考えるほど、見えてくるのは自分の「弱み」ばかりで、うんざりする日々。

ついには、”みんな”が就活を大方終えた6月末、内定が一つもでなくて、どうしようもなく悲しくなりました。


そんな就活時代の私に贈ってあげたい1冊に、最近出会いました。

(↓贅沢にも第1章が全文漫画化されています!)


「弱さ」にこそ多様性があり、超個人的な「悩み」は社会の伸びしろである

「マイノリティデザイン」の著者である、澤田智洋さんはコピーライター兼世界ゆるスポーツ協会代表理事。

1981年生まれ。言葉とスポーツと福祉が専門。幼少期をパリ、シカゴ、ロンドンで過ごした後、17歳で帰国。2004年、広告代理店入社。アミューズメントメディア総合学院、映画「ダークナイト・ライジング」、高知県などのコピーを手掛ける。 2015年にだれもが楽しめる新しいスポーツを開発する「世界ゆるスポーツ協会」を設立。これまで80以上の新しいスポーツを開発し、10万人以上が体験。また、一般社団法人障害攻略課理事として、ひとりを起点に服を開発する「041 FASHION」、ボディシェアリングロボット「NIN_NIN」など、福祉領域におけるビジネスを推進。著書に『ガチガチの世界をゆるめる』(百万年書房)がある。
Amazon商品ページの著者についてより引用)


20代のころは、必死に自分の「強さ」を磨き、もがきながらも広告業界で活躍の幅を広げていた、澤田さん。

その中でうっすらと感じてきた「広告作業」に対する違和感。
広告を作っては消えていく、シャボン玉のようなはかなさとむなしさ。

そして、息子さんに視覚障害があることが発覚する。息子の将来はどうなるのか?自分がどんなに綺麗なCMを作っても、息子には見ることができない。自分がやっている仕事なんて、まったく意味がないんじゃないか?

終わった、と思った澤田さんは、なんとか前を向こうと障害当事者の方々200人以上と直接会って話を聞き、結果的に「福祉」の世界に足を踏み入れます。初めて触れた世界で気づいたことは、人の弱みには多様性があり、その弱みを持つ「マイノリティ」としてとしての存在価値がある、ということ。

「幸福な家庭はどれも似たものだが、不幸な家庭はいずれもそれぞれに不幸なものである」。トルストイの言葉です。・・(中略)・・つまり、「弱さ」の中にこそ多様性がある。
だからこそ、強さだけではなく、その人らしい「弱さ」を交換し合ったり、磨き合ったり、補完し合ったりできたら、社会はより豊かになっていくと思うんです。(『マイノリティデザイン』p51-52)
あらゆる社会構造が多数決で成り立っていたら、いつまで経っても彼(息子)が生きやすい世界にはならない。マイノリティは、声の大きさではなかなか勝てないから。
でも、マイノリティだからこそ、社会を前進させるヒントを持っている。(『マイノリティデザイン』p108)

実際、マイノリティや社会的弱者の悩みや弱みから発明されたものが、結局マジョリティにとって便利なものであった例がありました。

私たちが普段使用しているライターは、片腕の人でも火を起こせるようにと発明されたもの、曲がるストローは寝たきりの人が手を使わずに、飲み物を飲めるように発明されたものだそうです。


ここで言う弱みは、世間で「障害」と呼ばれるものに限らず、それぞれ人は何らかの弱者やマイノリティであり、その超個人的な悩みは社会をよりよくする伸びしろ。

自分がこれまでに感じてきた「弱み」を、もしくは大切な”あの人”の「悩み」を、丁寧に両手ですくいあげる。それを無理に克服するのではなく、社会の仕組みやルールを変える方法を考えてみる。

だれかではなく、大切なひとりのために、超個人的な悩みを解決しようとする取り組みは、いずれたくさんの人にとっての救いになるかもしれない。全く役に立たないと思っていた「弱み」の可能性を感じることができました。

「楽しい」は一瞬だけど、「うれしい」は一生

もう一つ、「マイノリティデザイン」を読みながら印象的だったことは、澤田さんが純粋な楽しさや笑いが生まれる場所づくりを大事にしていることでした。

澤田さんが立ち上げたゆるスポーツも福祉への理解を広める、という目的はありますが、入口から福祉の話をすることはしません。まずは「楽しい!」が先に来る。そのあとで「実は…」とタネ明かしをする。


でも、単純な楽しさだけ、とは何か違う。その違いはなんだろう、と考えていたところ、本の中に答えがありました。

もちろん、楽しいことはいいことだし、そういった要素は多くの人の関心を引くためにも重要です。でも、もっと大切なのは、「うれしい」という感情も生み出すことです。言い換えれば、「嗜好品」としてのアイデアだけではなく、もっと「必需品」としてのアイデアを。
「楽しい」は一瞬だけど、「うれしい」は一生。「うれしい」という、じわじわと広がる感情を大切にすることが、長続きするクリエイティブの秘訣なんです。(『マイノリティデザイン』p295)

人を惹きつけるために「楽しい」を生み出しつつ、その裏に大切な誰かの「うれしい」も生み出す。大きくて華やかでなくても、小さな「うれしい」を生み出す企画は、じわじわと広がりながら育てられ、成長し、長続きしていくのだ。

点字に触れることができる本

1人暮らしで収納が少な目の部屋に住んでいる私は「本が増えると困るなあ」と思って、1年前くらいからkindleで本を読むことが多くなりました。

でも、今回マイノリティデザインを買う時は、なんとなく紙の書籍を選びました。

Amazonで注文し、手元に届いた時、本に触れて驚きました。表紙に点字が印刷されていたのです。

点字を印字したのは、この本の編集者であるライツ社の大塚さんから、澤田さんと息子さんへのプレゼントとのこと。

目の見えない息子さんが、「あ、これは僕とお父さんの本なんだ」みたいなことを感じるものがどこかにあってほしいな。そういうきっかけを1つでも残せればいいなと思ったのが最初でした。
(ライツ社のnoteより)

見えないだれかのためではなく、大切なあなたのために、一生続くような「うれしい」を生み出す。

この本に書いてある考え方が、表紙の点字にそのまま表現されているような気がして、じんわりと感動が広がりました。

私たちもその点字に直接触れながら読み進めることができる。みなさんにもぜひ紙の書籍を手に取ってほしいな、と思います。

さいごに

ちょうど最近の企画メシで聞いた、視覚障害をもつ檜山さんの話とリンクするような部分がたくさんありました。また、企画する際の姿勢については、コピーライターの阿部広太郎さんに教わったこととリンクする部分も多くありました。

これまでの私にとっては、視覚障害の方も広告業界も遠い存在でしたが、企画メシの講座や『マイノリティデザイン』をきっかけに、新しい世界の見方を教えてくれる大切な存在になっています。

「コピーライター」「福祉」に関わりがない人にこそ、読んでほしいと思います。

また、途中まで読んで積読本にしてしまいがちな私にしては珍しく、『マイノリティデザイン』は、ほぼ1日で一気に読んでしまいました。
普段あまり本を読まない人でも、負担少な目で読めるのではないかと思います。本に苦手意識がある人も、ぜひこの本を手に取ってみてください。





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