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ウクライナ侵攻と憲法9条

日本時間の2022年2月24日に ウクライナがロシア軍に全面侵攻(侵略)された。ウクライナ東部のドンバス地方(ドネツクやルガンスク)だけではなくチェルノブイリや首都キエフまでも陥落させる勢いで侵攻を続けている。プーチンは冷酷な独裁者だとは思ってはいたが、ここまで酷いとは驚きである。

さて、この戦争を受けて日本のSNSでは様々な意見が上がっている。反戦を願うコメントや欧米諸国と連携してロシアに経済制裁を行うべきだとかアメリカ軍や欧州諸国はもっとウクライナを軍事支援できないのかという声などが散見されるなか気になるコメントがあった。

日本国憲法9条を今回の戦争に乗じて批判するコメントだ。

まぁ大方がこのようなことを書いているわけだが、なぜ今回の戦争を目の当たりにしてこのような批判に行き着くのか理解ができない。

第九条 
日本国民は、正義と秩序を基調とする国際平和を誠実に希求し、国権の発動たる戦争と、武力による威嚇又は武力の行使は、国際紛争を解決する手段としては、永久にこれを放棄する。

② 前項の目的を達するため、陸海空軍その他の戦力は、これを保持しない。国の交戦権は、これを認めない。

日本国憲法

ロシアみたいに国際世論を無視して攻撃してきたり核攻撃も辞さないブラフをかけてくる国もあるのだから、日本はもっと戦力を強化しないと国は守れない。だから9条の制約は邪魔だということだろうか?

もしそうならば、短絡的でその考えの成れの果てが今回のロシアの蛮行であることを客観的に思い知るべきだ。「憲法9条さえあれば世界は平和になる!」と言う人がいると彼らはよく「そんな考えは頭の中がお花畑だwww」と煽っているが、どちらの意見も現実をみていないように私は思う。

日本では戦後、憲法9条2項の縛りもあり軍の代わりに自衛隊というものが創設された。必要最低限の国を守るための戦力ではなく実力として、現在他国の軍隊と比較しても規模は世界8位の国際法上では軍隊として扱われる巨大軍事組織である。もちろん憲法解釈では個別的自衛権は認められているし、2013年の安倍政権で集団的自衛権も認められると閣議決定されている。自衛隊による防衛行動は交戦権を行使したということにはならず、憲法違反ではないというのが現状の解釈である。決して他国から侵略行為を受けたとしても憲法9条があるから何も出来ない。という訳ではないことは皆さんご存じの通りだろう。憲法9条を改憲したい方々は、この今の自衛権では満足できずもっとハードパワーによる圧力が日本を平和にすると望んでいるのだろうか?それならばハードパワーがつくりだす緊張や威嚇というのは同時に何を生んできたのか歴史を学び想像力をもっと働かせるべきだ。


今回、ウクライナがEUや米国から思ったほどの支援を受けれていないのをみて、憲法9条改憲しなければ!と思ったか方も多いのだろうか?

Aさん:
もし日本が侵略行為を他国から受けたときに米国は本当に日米安全保障条約によって軍事行動してくれるのか不安だよ。


Bさん:
中国が超大国となった今、軍事力を増して台湾や東シナ海へ侵攻するのではないか?
その時、日本も危ないんじゃないの?


Cさん:
いざという時は誰も信用できないのだから自分たちの国は自分で守ることが大事じゃないか!

このような意見が聞こえてきそうだ。
そう思う気持ちもわからなくはないが、その解決策が力の論理ならばロシアと変わらない道を進みたいと思われても仕方がない。日本は日米安保によって守られていることは否定しないし、憲法9条が有事に敵国の心を動かし平和が訪れるとも勿論思っていない。
もし本当に「憲法9条の理念だけあれば世界に平和が訪れるから日本は武器を捨てて丸腰になりましょう!」と言っている国会議員がいるとしたら間違いなく落選させた方が良い。だからと言って水戸黄門の印籠のように見せつければ相手は言うことを聞くと思っている頭の中がお花畑な人(性善説)から9条を否定するのは論点のすり替えというか本質的な9条の議論にならない。
ハードパワーをもっと手に入れれば抑止力が得られるという思考に取り憑かれた人々が憲法9条さえあれば平和になると思っている人々と論戦してもそれは不毛なのだ。

Dさん:
「いやいや、専守防衛を堅持した軍隊の存在をしっかりと憲法に明記したいだけですねん!だから憲法9条改正や!」

確かに憲法9条において自衛隊の存在を正当化するには、解釈が難しい部分はある。それによって、命を懸けて国防を遂行する隊員の方々ももどかしい思いを持っているかもしれない。もし本当に、今までのように専守防衛を堅持するならば、条文をもっとわかりやすく明確にすることが議論されることは良いと思う。

ただし、これだけは忘れてはならないことがある。

絶対的権力は絶対的に腐敗する。

これは英国の歴史学者アクトンの言葉。
もし腐敗しないと思っている人がいるならばそれこそあなたの頭の中は見事な程のお花畑だと忠告したい。
プーチンは盛んに強いロシアの復活を掲げて今回の蛮行に行き着いた。自らに権力を集中させ、都合の良いように法を改正し、ロシアの安全保障が脅かされていると言い張って、防衛の為というめちゃくちゃな論理でウクライナを侵略した。このような独裁者がいつどこで新たに生まれても全くおかしくはない。それはもちろん日本も例外ではない。

なぜか9条改憲を高らかに叫ぶ方々は、自分達だけは憲法による自らへの制約がなくなったとしても暴走することはせずただひたすら防衛力を強化することだけに邁進するだろう。というあれだけ馬鹿にしていた性善説に依拠して改憲を高らかに叫ぶ。きっと今まで戦争を起こしてきた愚か者も最初はそうだったであろう。そして段々と隣の芝生が青くみえてきたり、自分に不都合なことがあったら脅して黙らせたくなるものなのではないだろうか。今回のロシアのウクライナ侵攻は、権力者が愚か者になろうとしている時に、最高法規である日本国憲法9条はいかに戦争を抑止することができるのかを改めて考える重要な機会として捉えたい。

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