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こんなにも君が好きで goodbye mother

あらすじ
アメリカ在住のベトナム人ヴァンは、父親の改葬をきっかけに9年ぶりに実家のあるベトナムへと帰国する ゲイであるヴァンはアメリカで同じくベトナム人のイアンと同棲しており、今回の帰国にはイアンも同行していた
ヴァンは今回の帰国を機に、母であるハインにゲイである事をカミングアウトをし、イアンと自分は恋人である事も、ハインに告げるつもりだった
実家に着くと母ハインや親戚一同の歓迎を受けるヴァンだったが、イアンの事を恋人であるとはどうしても言い出せなかった そんなヴァンを理解しようとするイアンだったが、そんなイアンを認知症であるヴァンの祖母がヴァンだと思い込んでしまい、片時も離れようとはしない 
ゲイである事をオープンに出来ないヴァンの実家で過ごすうちに、ヴァンとイアンに少しずつ距離が出来てしまうのだったが…

(物語の重要な箇所と結末に触れています)

この映画の凄さ、それは人と人との距離感を人間の体温や香りや鼓動までも伝わってくるような繊細な描写によって、とことん描き切った所にあると思います

ホームに帰ってきたのに自分らしさをどんどん失って萎縮していくヴァンの姿、そしてアウェイな場所で孤軍奮闘するけれど徐々に追い詰められていくイアンの姿
それでも2人は環境に順応しようとして、無理にでも笑顔を作らざるを得ない ヴァンとイアンはますます萎縮していきます

友人として家族に紹介した以上、イアンと一緒のベッドに寝る事が出来ないヴァンは、早朝にアラームをセットして、毎朝イアンの横から離れなくてはいけない 実家というプライバシーがあるようでない場所にて、ヴァンとイアンそれぞれの持つ境界線が脅かされていく所が本当にリアルだと思いました

ヴァンがかつてベトナムでどんな暮らしをしていたか、はっきりとした描写はありません ですが地元の親戚や友人達に連れまわされて異性愛者のフリをするヴァンの姿や、イアンの口から語られる2人が出会った当初のヴァンの姿を通して、彼がいかに人に心を開けず強固な境界線を持っていたかが良くわかります
そしてイアンとの恋愛によってヴァンが自分自身をやっと肯定出来たのだと察する事も出来る

ヴァンを1人にしたくなくて、今回の帰省に同行する事を自らの意志で決めたイアン イアンはヴァンの最大の理解者であり、彼を深く愛しています
実家の中で人目を忍んでイアンを求めるヴァンの姿を見ていると、彼がイアンの愛情によって大きく支えられてきたがわかりますし、だからこそ映画の中盤ですれ違ってしまう2人の姿がとても切なかった

地元に帰り、事ある事に結婚や子供を持つ事が最大の親孝行であり幸せである、と言われてしまうヴァン
僕達ゲイが結婚や子供を持つ事を夢見ても、まだまだそれは簡単では無いですし、自身でも苦しんで悩んでいる事を善意という形を取った無神経な言葉によってさらに傷つけられて二重に苦しんでしまう…そこは観ていて僕はおなじゲイとして他人事だとは思えませんでした

映画の終盤でついに母ハインにゲイである事、イアンが恋人である事を知られ激しく動揺するヴァン
そんなヴァンとハインの間に出来てしまった距離 母の前で胎児のような体勢で、頑なな表情で座る母の爪先に手を伸ばすヴァン だけど拒絶されるのが怖くてすぐに手を引っ込めてしまう そんな2人の境界線と距離感を見事に映像の中で表現するこの映画

そしてこの映画は非常に官能的です 家族と家族の距離感の描写だけでも匂い立つように感覚としてこちらまで伝わってくるのですが、愛する恋人同士のお互いの境界線が曖昧になっていき、五感全てで相手の存在を受け入れる瞬間の描写がとてもリアルですし、とてもとても官能的でした

ラストも家族同士の馴れ合いで終わらせる事がなく、家族からのそれぞれの自立の形をもちゃんと描いた所が、更にこの映画の凄さを際立てています
ベトナム映画凄いですね

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