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自己紹介④ アニメーター時代

Zap.(ザップ)と申します

「なにもの?」と思っている方に向けて、自己紹介しています。
自己紹介と言いつつもう4回目です。
前回までは
自己紹介① 現在の仕事 2019~
自己紹介② 学生時代と出版の仕事
自己紹介③ 初めてのゲーム業界
今回は、アニメーター時代を綴らせていただきます。

◆諦められなかったアニメの仕事

 出版系デザインもゲームの仕事も、魅力にあふれていて中途半端に離れるのは未練もありましたが、子供のころから「絵を仕事にしたい!」(※1)、そして、どうしても一度は「本気で取り組んでみたい!」(※2)と思っていたのがTVアニメの仕事です。

(※1)幼少期に『機動戦士ガンダム』を観て大河原邦男氏、安彦良和氏のデザインや原画、レイアウトに衝撃を受け、以降様々なアニメに興味を持ってデザインの真似事やイラストを描くようになりました。

(※2)当時の「本気」とは「一般的な幸せはすべて諦めてもアニメの仕事をする」というものでした。大雑把に言うと、結婚や育児、贅沢や安定した生活、幸せな老後といったものを得られず野垂れ死んでもアニメの仕事ができればいいという、今にして思えば完全に間違った決意の仕方ですね。

◆どうやって始めようか悩んだアニメ業界

 前職を経てけっこうな年齢になっていました。
 でも、始めてしまえば何とかなるはず!というわけで方法を検討しました。
 ①改めてアニメーションの学校に通う
 ②アニメスタジオの動画採用試験を受ける
 ③自主製作
 ④先にアニメ業界に入っていた友人に相談

 ①
は学費が高額ですし、オタク仲間と遊び癖ついてサボってしまう懸念と、自分はすでに絵が描ける!という勘違いでいったん却下。
 ②は今ほど情報がないため実施されているのかわからず、さらに有名スタジオは狭き門なのでいったん保留。
 ③については、現在ならツールも安価でSNSなど発表の場も多くあり現実的と言えます。実際このルートからプロになる人も増えてます。しかし当時個人でやるのは金額的にも労力的にも今よりハードルが高かったです。

 そこでまずは④を選択、未経験でもやらせてくれるところがあるかを友人に相談してみました。入れそうなところが見つかればラッキー。それが無理でも採用試験などの情報を得られると思ったからです。

 友人によると、万年人手不足なので零細の作画スタジオは「原画やりたいって言えば入れるよ」(当時)と。動画修行もやってないのでさすがにすぐには信用しませんでしたが、本当に入れた

 【ご注意】絶対にマネしないでください。…っていうか今は無理だと思います。その後、胃に穴が開きそうなほど苦労して後悔しました。自業自得です。(本当にゴメンナサイ💦)

◆アニメ初仕事

 経歴詐称して入ったアニメスタジオでの初仕事は、R-18アニメの第二原画(※3)だったと思います。絵に不備があって直したいけどもう外部の担当原画さんにリテイク(修正指示)を出す時間がないから誰かなんとかしてくれ!…みたいなやつです。

(※3)第二原画とは
 第一原画だけでは完了しない原画作業を一部受け持つ仕事です。
 第一原画が行う、レイアウト(背景および演技プランを決める画面設計)の後を引き継いで、監督や演出の指示に沿って原画の絵を仕上げ、次工程(動画)に渡すのが主な役割です。
 第一と第二に分ける理由は、スケジュールが厳しいとか第一原画が逃げたとか作品のクオリティが高くてひとりでこなすのが難しいとか理由はいろいろです。あらかじめ分けておいて、個人の負担軽減をする場合もあります。
 当然、報酬も折半になります。第一原画60%、第二原画40%くらいです。

何はともあれアニメの仕事ができることになりました。
ここでの仕事内容は、R-18アニメの第二原画の他に
・TVアニメの原画
・撮影素材作成の手伝い などです。

 「とにかくやってみよう」で始めましたが、わからないことだらけなので、録画したTVアニメをコマ送りしてトレース練習したり、友人に専門用語の意味をきいたり、本を読んだり、必死に勉強しました。
 そんな調子なので時間がかかります。仕事が終わらず毎日睡眠2~3時間で1か月くらいスタジオに泊まって仕事しました。(自業自得)

 仕事としてお金をもらう以上逃げ出すわけにもいかないので、とにかく必死にあがきました。描けないものも必死に仕上げて、ギリギリOKラインまでもっていくのが限界でした。しかし、完全な実力不足&知識不足です。
 甘さに気づいた私は、なんとか仕事を終わらせて改めて別のスタジオに新人として入り勉強をし直すことにしました。

◆動画修行~原画に再挑戦

 このときすでに26歳でした。
 アニメ動画の勉強をいちから始めるには業界的にかなり遅い年齢です。自覚はありました。ですがこのままではあまりにも悔しい。

 次に入った作画スタジオは、環境こそよくはありませんでしたが歴史が古く仕事は継続的にありました。上手い先輩原画スタッフも在籍していて家からも近く、やる気さえあれば勉強しなおすには都合がよい場所でした。

 しかも、幸いなことに前スタジオでやった原画の真似事が、動画の勉強にとても役立ちました。
 動画の仕事は、原画と原画の間をつなぐ絵を描くのが主です。知識がないと絵と絵の間をなぞるだけの作業になってしまいがちなのですが、原画という上流工程を経験できたおかげで、原画の意図や指示の理解が早くなり、原画の不備にも気が付くようになっており、リテイク(作業のやり直し)が少なくてすんだのです。

 しかし、ここでもう一つの壁にぶち当たります。
 線の引き方が原画と動画では全く別物(※4)なのです。動画の作業にクリンナップ(clean up)というものがあります。ラフに描かれた原画の線を整理して整えて作業指示に従ってトレスし直す作業です。具体的には線が途切れている部分をつないだり、薄いところを濃く描き直したり、次工程に不備なく渡すための作業です。
 「なぞるだけなら簡単じゃん!」と思ってなめていると、出来上がった絵が原画の良さとはまったく別物になります。これを揶揄してクリーンダウン(clean down)と言うとか言わないとか…奥が深いです。
「動画線は、なぞるのではなく描くのだ」とは先輩の教えです。

(※4)原画と動画の線
 原画の線は、勢いがあり絵の魅力を引き出す生きた線です。ごく稀な例外はありますが、そのまま映像に出ない線なので、上手い絵であれば多少線がブレていようが切れていようが下書きが残っていようが問題ありません。演出意図をより良く実現していれば多少ラフでもOKです。
 動画の線は、原画の指示に忠実であること。スキャン時にはっきりと読み取れて線に切れ目がないこと。色塗り(仕上げ)に不備が出ないことが重要です。そのうえで原画の魅力をなるべく損なわない技術があればさらにいいです。原画線を動画用にトレスし直す(クリンナップ)作業でも、上手い動画さんは自分で描いたような生きた線でクリンナップします。
(もっと賞賛されるべきすごい技です)
 動画は原画の修行のためにやるのではなく、原画と動画は別の仕事です。

◆TVアニメ『メダロット』に挑戦!

 しばらく動画の勉強をした後、『メダロット』という作品で原画をやるチャンスがきました。キャラクターも魅力的で、勉強もし直したし今度こそ頑張るぞ!と気合も十分です。
 ですが、ここでもいろいろと足りないものがまた露呈します。レイアウト(※5)ってこんなに難しいものだったのかっ!!

(※5)レイアウトとは
 ※3でも少し触れましたが、簡単に言うと「キャラクター(演技)」と「背景美術」「演出意図」を同じ画面に収めるための画面設計のことです。撮影しているカメラの位置や画角、ロケーションを想定してパースを頼りに絵にしていく作業です。
以下にレイアウトの一例を貼っておきます。

画像1
近未来レースアニメのサーキットVIP席
画像2
戦後のあばら家とオート三輪

◆原画という仕事

 原画として再出発してすぐ壁にぶち当たりました。
 主なものは以下の3つです。
①レイアウトってどう描くの?
②動画の線のクセが抜けない(生きた線が描けない)
③絵が好きなだけで映像やカメラの知識がなさすぎる
 これ私だけに限らず、多くの新人がぶち当たる壁だと思います。学生時代から自主製作アニメを作っていたり、アニメ学校でまじめに授業を受けていた人は理解が早いと思いますが、前職でも第一原画の部分は少ししかやってなかったのでまったく理解できていませんでした。

①レイアウトってどう描くの?
 コンテの意図する通りに描けばOKです。…だが!これが難しい!!
 上でも少し触れましたが、超簡単に言うとキャラクターの芝居と背景の見え方の設計図です。画面構成といってもいいです。
 これを演出意図にそって高いクオリティで設計できるようになるには映画的技法や演技論、コンテの意味、アニメでできることできないこと、カメラの位置、レンズの種類、前カットとのつながり、対比やパースの知識、時間とロケーション、ライティングなどなどなど、考えなくてはいけないことが膨大にあります。なので、それらを表現できるだけの画力と知識が必要不可欠となります。
 アニメのクオリティを左右する重要な作業です。ですが、未熟な者にはせいぜい「画面のどこにキャラクターがいて、背景のパースや光源と違和感がないか、一連のシーンとしてつながっているか」程度できれば御の字です。

②動画の線の引き方が抜けない
 デジタル処理のために均一な線を求められてきた影響で、生きたカッコいい線が引けず、見栄えのする絵が描けなくなっていることが多いです。クセが抜けるのには数か月~数年かかることもあります。
 余談ですが、前述の生きた線で動画を描ける人。自分の絵を描くような素早いペンさばきでも原画とまったく線がズレない程に手のコントロールが完ぺきな人には、おそらくこの手の悩みはありません。

③絵が好きなだけで映像やカメラの知識がなさすぎる
 アニメは基本的に絵なので、絵が描ければできると思われがちですが、絵の前に映像なので実は絵以外の部分がものすごく多いです。
 例えば、映像にはカメラが不可欠です。カメラのルールやレンズの知識を理解して絵を描く必要があります。新人はまず「望遠」「広角」の見え方の違いあたりから壁にぶち当たります。

 大多数の新人原画スタッフはとにかく、作画監督様と演出様にご迷惑かけるのを避けられません。
 かくいう私も、某作画監督さんに「お前みたいなヤツがくる世界じゃねえんだよ、〇ね!」と言われました。

 「〇ね!」と言われた私ですが、その後勉強しながら仕事を続けて多くの作品に原画として名前を出すことができて、アニメ会社から依頼がくる程度には成長し、苦しくも楽しいアニメーター生活を続けることができました。
 と同時に、なかなか収入の上がらない絶望にも苛まれ、モチベーションが下がり続けます。当初の「本気」を維持するのは難しくなり「好きだから」だけで続けるにはあまりに過酷な世界だと感じるようになりました。

 多くの中堅アニメーターは、この問題を抱えて業界を去っていくことになります。実際に夢をもって入ってくる新人はとても多く、実力あるベテランは第一線で活躍し続けるので中堅が抜ける空洞化が著しい業界です。

 粗製乱造をやめて、意識と技術がずば抜けて高い一部のクリエイターのみが、その技術や作家性を活かしてハイクオリティな作品を世界に発信するのが日本アニメ業界としては正しい形なのかもと感じてしまいます。
 それが実現しても、搾取構造は残るでしょうから業界の根本的な待遇改善は必須でしょう。もっと言うなら日本全体(特に金を出す側)に、クリエイティブに敬意を持つことがひいては自分たちのためなのだとわからせる必要があります。

◆アニメの仕事を長く続けるということ

 アニメ業界の離職率は9割と言われています。理由はいろいろですが主に以下のようなものではないでしょうか。
・賃金が低い/上がらない(金銭的問題)
・労働時間が長い(拘束時間問題)
・休みがとれない(体調管理・ストレス問題)
・要求される技術が高く、教育システムが弱い(旧世代的職人意識)
・好きな絵ばかり描けるわけではない(理想と現実の乖離)
・室内での喫煙や設備不足など(職場環境の問題)
・人間関係やハラスメント(完全実力主義の弊害)
 現在は、徐々に改善されているので実態とはズレているかもしれません。喫煙の問題などはかなり解消されたと聞いていますが、経験から浮かんだ問題点このあたりで、「理想と現実の乖離」以外は見てわかる通りまっとうな思考力があれば絶対働きたくないレベルのブラックです。

 自慢ではないですが、当時はそこそこ頼られるアニメーターでした。理由は、スケジュールを守り演出意図を最低限汲めてレイアウトを描ける、すごく上手くはないがマジメなアニメーターだったからです。
 当時、安く作れると勘違いされ粗製乱造されるアニメの数が多く、万年人材不足だったことも重なって仕事に困ることはありませんでした。

 当初は「アニメの仕事だけやれれば幸せ」と決意していたはずの私でしたが、何年も極貧生活(※6)をして仕事だけやっていると、徐々に精神も身体もすり減ってしまい、熱い向上心や楽しみすら見出せなくなってしまいました。

(※6)極貧生活
 ある日、安売りスーパーで手に取った弁当は「300円」でした。高くて手が震えました。その300円が出せずに弁当を諦め100円しないカップ麺を買いました。金のないアニメーターは、カップ麺頻度がものすごく高いです。
 幸い私は実家暮らしだったので、親に泣きつけば何とかなるだけかなりマシだったと言えます。一人暮らしの厳しさは想像を絶します。

 この時期に、結婚を真剣に考える機会があり人生設計を変更せざるを得ないと考えるようになりました。

 アニメ業界の厳しさはある程度覚悟していましたが、それでも甘かった。アニメ業界の本当の過酷さ自分の技術不足をわかっていなかったのです。
 それともうひとつ言えるのは、「他業界で社会人経験があったからこそ、アニメ業界のブラックさに耐えられなかった」とも言えます。

 ここまで悪い面ばかり強調してしまいましたが、クリエイティブな仕事としては、とても奥深く刺激に満ちた仕事です。
 高い理想を維持して不断の努力で業界を支え続けているスタッフには本当に頭が下がります。しかしそういう人たちに、相応の対価が支払われているのかは疑問です。クリエイティブな仕事に理解と敬意を持つ国では、当たり前ですが日本の何倍も厚遇です。

 まったくの余談ですが、敬意がないエピソードをひとつ。
 あるアニメの打ち上げパーティーに招待された時の事、会場内を料理目当てに彷徨っていると、とても目立つ一団がいました。何の気なしにそちらへ行くと、スーツを着た一人の男性に「ここは君がくるところじゃないよ」と静止されました。自分たちが心血注いで作ったアニメの打ち上げなのになぜそんなことを言われないといけないのか??
 その一団は、声優陣を囲むレコード会社や広告代理店の集まりでした。名札で確認すると、私を追い払った男性は広告代理店の人間。仕事場から直接足を運んだこともあって小綺麗とは言えない疲れた風体だったのでしょう。本当に今思い出しても悔しい出来事でした。

◆アニメの仕事で学んだこと

 終わりに。
 あまり偉そうなことは言えないのですが、数年間取り組んでみて自分なりに得たことを思い返してみます。詳細は省きますがざっと挙げただけでもかなりの事が身になったと感じています。今の仕事にも大いに役立っていますので、結果的にはやってよかったと思っています。

アニメの制作工程
コンテの読み方(基礎)
動画の役割
仕上げ・アニメ塗りの意味
レイアウトの意味
原画の重要性
パース&透視図・レンズ・画角(基礎)
静止画と動画の画作りの違い
絵を動かすということ(初歩)
情報量のコントロールと省略の美
演技・演出論(初歩)
完全実力主義の過酷さと業界構造の悪さ
 
……などなど

◆関わったアニメの一部

『メダロット』(TV)
『おジャ魔女どれみ』シリーズ(TV)
『プリキュア』シリーズ(TV)
『とっとこハム太郎』(TV)
『あたしンち』(TV)
『天地無用』(TV)
『テニスの王子様』(TV)(OVA)
『桜蘭高校ホスト部』(TV)
『ぱにぽにだっしゅ!』(TV)
『BPS バトルプログラマーシラセ』(TV)
『サクラ大戦V』(GAME)
『犬夜叉』(劇場版)
……などなど

自己紹介はこれでいったん区切りとさせていただきます。
機会があれば、他の経歴についても綴らせていただきます。

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