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ワンタヌキアーミー:ラスト

前回の話

Ω軍はすでに制圧を終えつつあり、残存勢力を排除するフェーズに移行しつつあった。捕虜となるもの、抵抗するもの、一人また一人と戦闘不能になっていく。圧勝であった。既に九割がた探索を終え、残るはあと一部屋のみ。「葉」とだけ書かれた扉を兵士たちが囲み、そのうちの一人が手をかける。

瞬間、大量のΣ軍兵士が部屋の中から雪崩のように突き進んできた。人数が明らかに多い。一部屋に入っていたには余りにも。まるで部屋から無限に兵士が吐き出されるかのように。異様な光景にあるものは失神、あるものは銃を捨てて逃げ出し、あるものはΣ軍兵士の波にのまれていった。

時折兵士に混じって、戦車、ヘリ、戦闘機、潜水艦までもが部屋から現れる。それはまさしく、現代の百鬼夜行であった。隙を見て生き残ったΣ軍兵士たちが、葉っぱ兵士たちに交じって戦う。突如として現れた大軍に、Ω国軍は戦闘を再開する。Σ軍にとっては奇跡であり、Ω軍にとっては悪夢であった。

銃で撃たれれば鋭い音を立て、茶碗と葉っぱをまき散らす兵士。Ω軍の一人が叫んだ。「自分たちは何と戦っているんだ」と。Σ軍の兵士の一人が思った。「自分たちは何と一緒に戦っているんだ」と。

やがて、部屋は最後の兵士を吐き出し終わった。後には大量に転がるからっぽの箱と、葉っぱの臭いだけ。喧噪を後ろに全力で駆ける一匹の獣あり。それは狸だった。化け狸だった。

何年か経った。

狸はあれから用心深くなり、二度とあんな目に遭うまいと、化けの修行に精を出した。やがて狸は、山一番の化け上手になり、少したくましくなった。あの戦争も今は昔。故郷の山から、狸は人の営みを見下ろす。戦争が終わり、かつて二つあった旗は一つだけになってしまった。

それがΣ国の旗なのか、Ω国の旗なのか、狸にはわからなかった。

【ワンタヌキアーミー:完】


サムネイル:PublicDomainPicturesによるPixabayからの画像

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